実録ハイテク物語NO.2

実録ハイテク物語NO.1

目次

実録ハイテク物語NO.3

その2・新入社員

14.製品直送

13.先輩と後輩

12.エージング

11.歩留まり改善    

10.石鹸のハナシ

9.選別作業

8.抵抗温度係数

7.初めての、お給料

6.班長さん

5.最初のテーマ(3)

4.最初のテーマ(2)

3.最初のテーマ(1)

2.イヨイヨ、実務

1.抵抗器製造部への配属

実録ハイテク物語NO.1


その2

1.抵抗器製造部への配属

イヨイヨ、入社です。
1969年3月23日。入社式がありました。
京都産業会館やったような、そうではなかったような。
入社したのは、男子15名、女子50名程度。
記念写真を撮ったり、延々と、エライさんのおハナシがありましたが、どんなハナシがあったのか、ナニも覚えてません。
誰でもそうと思いますが、関心事は、式で頂けるはずの、辞令、配属命令。どこに配属されるのかなあということです。ところが、そんなものはありませんでした。以降もナシです。
貰たのは、配属先を記載した、ネームプレートだけ。これが、配属命令のようです。
そして、配属先は、抵抗器製造部QC課生産技術係。
実習先はQC係ですから、少しチガウのですが、製造希望でしたから、ガッカリ。ということもありません。薄々は覚悟してました。
オナジ職場には田内クン(三年後に退職)が配属されました。機械工学科出身です。
名古屋出身で夏休みは帰郷してたとのことで、実習には参加してなかったのです。
直属の上司は家本主任。化学工学科出身です。
この配属先は、入社一週間で、組織変更になりました。
QC課から、生産技術係が独立して、生産技術課になったのです。早速、ネームプレートの表示が代わりました。
変更になっても、やることはオナジやからなあ。
係長から課長に昇格した、井上さんからのハナシがありましたが、私など、入社一週間ですから、ナニも、仕事はしてませんでした。
ああ、あの時差出勤の植村さんが無関係になったなあだけ。
とは云っても、ハナシをしたこともありませんでした。そもそも、時差出勤でもありますし、居てるのか、居てないのか、顔を合わすことも少なかったのです。
配属先で、最初にハナシがあったのは、抵抗器の部長さん。
「諸君の実績は標準書をどれだけ作るかに掛かってます。頑張って下さい。」
諸君と云っても、その場に居たのは、田内クンと二人だけ。
配属先の生産技術がナニをするのか、そこで、自分自身がどんなコトをするのか、ナニも知りません。
それと、「標準書」がどんなものか、見たこともありませんし、ナンの関係があるのかも分かりませんでした。
職務の意味が分かったのは、実際に何らかの業務をモノにして、文書化(技術標準の作成)をしてからのことです。
その職務とは、工程改善、品質改善、新技術の開発等です。
上司である家本さんからは、標準書なるものを、マズ、読みなさい。そして、工程を見て、比較対照しなさい。との指導がありました。
とりあえず、標準書は読みましたが、意味は分かりません。
堅苦しい表現の文章。その程度です。
それと、工程に入るときは、素手で製品は触らないこと。触るときは綿手袋をすること。
勿論、塗装(保護膜)後は構わないけど、それ以前のモノを素手で触ると、不良になるとのことでした。
ですから、田内クンと二人で、ズーっと工程に入ってました。
私にとっては工程に入れることは嬉しいことです。製造部門のホウは機械が動き、ヒトが沢山居ますし、活気がありました。そういう雰囲気が好きなのです。
マエ工程(素体工程)は準社員の小父さん。そこから先のアト工程は女性が作業してました。
工程は幾つかの班に分かれていて、班長さんが指揮してました。
工程の班長さんとも顔見知りになっておくこと。そんなことも目的にあったような気がします。
生産技術として、どんなヨイことをしても、ナニをするにしても、工程の協力が無かったらナニも出来ません。
その標準書と工程の対比が何時までということもありませんでしたが、組織変更になった途端にテーマが与えられました。


2.イヨイヨ、実務

イヨイヨ、実務です。
ところが、最初のテーマは、金属皮膜固定抵抗器(「金属皮膜」と略称します)の開発。
イヤイヤ、正直申します。正確には開発の応援です。
新入社員でいきなり、開発なんか出来るハズがナイでしょう。
そもそも、新製品の開発は、開発部というのがあって、そこが担当するのです。
私などは、生産技術ですから、新製品の開発は業務外のハズですが、そんなことを云ってられない状況だったのです。
金属皮膜も、開発部署の担当者がやってたのですが、品質が無茶苦茶。
それで、開発応援のため、抵抗器製造部に配属された新入社員7名が動員されたのです。
理由は、金属皮膜は、まだ開発途中で、製造工程が編成され、製品を出荷してたのです。
勿論、受注があったから出荷してたのですけど。
新製品というのは、製造条件が確立するまでは、どんな問題が出現するか分かりません。
金属皮膜に、ナニがあったのか。簡単には、歩留まりが悪かったのです。
ですから、まず、出荷数量を確保するため、昼間は、正規の作業者が作業して、夜は新入社員が作業を引き継ぐことになり、昼間は、各種実験調査です。
結果的に、この応援で、夜は実作業を経験して、昼は実験計画法を実地訓練出来ました。
ついでに、ここの工程の長、班長は勿論のこと、作業者全員に至るまで、仲良くなりました。
その年には、大阪で万国博が開催されたのですが、これに誘われて、何回も行きました。
断っておきますが、個人的にではナク、職場のレクリエーションで、会社が交通費等を負担してくれましたから、そこの工程長からのお誘いです。
それだけではなく、送別会から誕生会まで。
こんなものまで職場の行事としてあったのですが、全て、呼び出されました。
それはそれとして、肝心のテーマですが、これまた、変動です。
夏休みの実習でやったのは、試験での変動。こっちは、工程間の変動。
金属皮膜の抵抗値の許容差は炭素皮膜より厳しいのです。
許容差というのは、炭素皮膜の場合、公称抵抗値からのズレの範囲が5%とか10%の規格ですが、金属皮膜では、厳しく、1%とか、0.5%の範囲です。
それだけ、金属皮膜は抵抗値の変化も少なく安定してるハズなのです。
もう一つ、抵抗器の重要な特性に、温度での抵抗値の変化があります。
それを、抵抗温度係数と云いますけど、金属被膜では、その変動が少ないのです。
程度はイロイロありますけど、炭素皮膜は、大凡、500ppm/℃程度。
これは、周囲温度が10度も変化したら、0.5%にもなります。
金属皮膜なら、50ppm/℃程度ですから、一桁チガウのです。
使用場所によったら、10度どころか、数十度も温度が変動しますから、炭素皮膜は精度を要求されるときは、金属皮膜となるのです。
さっきの工程間変動が大きいと云う意味は、せっかく、所定の抵抗値に調整しても、最終製品になったとき、抵抗値が変化してるのです。
許容差そのものが狭く、しかも、工程が進んだら範囲外にズレてしまう。ズレたものは不良ですから、歩留まりが悪くなって、予定の出荷が出来ない。
軽く、50%以上の不良で、倍以上の投入をせんと、出荷出来ません。
しかも、重要な特性の温度係数もバラバラ。
社長まで陣頭指揮に立ったのです。
(99/05/31)


3.最初のテーマ(1)

ナニをしたかと云うマエに、若干の工程の概要を説明します。
マズ、本体について、炭素皮膜は棒ですけど、金属皮膜の場合は、磁器管でした。
大きさは、米粒程度の円柱形の管です。現在では棒になってます。
それに、金属を蒸着したのです。ナンで、管にしたのかと云いますと、蒸着するとき、筒に針金を通して数珠繋ぎにするためだけです。
その本体に、リード線を付けて、フェノール樹脂を塗布しました。
理由は、金属を蒸着してますから、金属の表面が酸化して、抵抗値の変動を防止するためのものです。
そして、カッティング(トリミング)工程。
これは、金属を蒸着しただけでは、抵抗値がバラバラですから、蒸着した金属被膜を螺旋状に切削して、所定の抵抗値に調整するためです。カッティングで、数倍から100倍程度に抵抗値を上げます。
ちなみに、蒸着した金属膜の種類にもよりますが、膜が厚いと、低抵抗、薄いと高抵抗になります。
専門的なハナシになりますが、余り、膜厚が薄いと、温度係数が悪くなったり、抵抗値以外の特性にも影響しますから、色んな意味で、カッティングするマエの抵抗値(初抵抗値と云います)は低い方がヨイのです。
カッティング工程のアト、塗装して、抵抗値の測定。
測定した良品だけに、ナンΩとかの標印をするのです。
あとは、包装して、出荷です。
それで、ナニをしたのか。
フェノール樹脂の効果はどうか、それと、カッティングのアトで、短時間過負荷ということをするのですが、その効果の調査です。
フェノールのホウは、アリ、ナシの比較。
短時間過負荷というのは、その名称の通り、過負荷を短時間(数秒)掛けることです。
これは、カッテイング(抵抗値の調整)と塗装の間でやるのです。
金属膜を螺旋状にカッティングしても、切り溝の状態が悪いことがあって、切削した磁器管に金属膜が残ってしまうことがあるのです。
その状態のモノの電圧を加えて、電流を流すと、金属膜の残った部分が発熱して、壊れてしますのです。壊れると、抵抗値が変化してしまいますから、測定では不良になります。
つまり、ヘンなヤツは壊してしまえと云うことです。
それで、フェノール樹脂、アリ、ナシ。短時間過負荷、アリ、ナシの比較で、4種類のサンプルを作って、カッティング以降の各工程での抵抗値の変動を調査比較するのです。
調査は簡単に終わり、発表会。
発表会とは、エライ、大袈裟なことですが、社長を筆頭に、エライさんに対して、新入社員全員での発表会です。
そして、社長がエライご立腹になりました。
(99/06/03)


4.最初のテーマ(2)

まず、フェノール樹脂の塗布、あり、なし。短時間過負荷、なり、なし。
この4種類の調査結果は、予想通りでした。
フェノール樹脂は、あったホウが変動は少ない。短時間過負荷はカッティングの状態ですけど、発熱させるのやから、アリのホウが変動が多い。
その他のメンバーの報告も、概ね、理屈どおりの結果です。
私の報告は、こんな調子でやりました。
「Aコースはフェノールありで、短時間過負荷あり。
Bコースはフェノールありで、短時間過負荷なし。
Cコースはフェノールなしで、短時間過負荷あり。
Dコースはフェノールなしで、短時間過負荷なし。
この4ッツのコースで、各工程毎に、抵抗値を測定しました。
結果はCコースのサンプルについて、変動は最も大きく、Bコースが少ないです。」
ホカのメンバーの発表も、オナジようなモンです。
次第に、社長の表情が険しくなってきました。
結果も大したことないけど、最後に、こんな云い方をされたんです。
「オマエ等なあ、料理屋やあるまいに、なんとかコースて、ナンや。
そんな云い方、ダレに教えて貰たんや。」
社長の語気はご立腹で、全員を睨み付けてます。
私等には、その原因は分かりません。
それだけやったら、マシですけど、同席してた時差出勤のQC課長さんまで、一緒にやるのです。
イヤ、QC課長さんは、イツの間にやら、技術部長に昇進してました。
その部長が退職したのです。
どんなヒトか見たこともけど、カッティングマシン、塗装機、抵抗器製造工程の主要な設備を、全部、設計したヒトらしい。
エライ、優秀なヒトやのになあ。なんでやろ。ワケが分からんままに、色んな噂が飛び交ってましたけど、実際には独立しやはったそうです。
その技術部長の代わりやけど、この時差出勤の部長さんではなあ、どうなるんかなあ。
それはそれとして、時差出勤の部長さんが申します。
「もっと、要因を掘り下げて、実験計画を組まんとアカンやないか。
どいつもこいつも、頼りないヤツばっかりやで。」
頼りないもナニも、工程の内容も知らんと、金属皮膜開発の応援で、開発担当者の指示でやってることですから、ナニを云うてるのかなあ、程度です。
この応援は、約半年やりましたけど、その中間くらいやったら、社長の云う意味も、要因を掘り下げることも、少しは出来たでしょう。
社長のハナシは簡単です。
通常、実験計画では、実験ナンバーを設定します。
その設定は、Aコースとか、そんな表現はしやへんのです。
実験ナンバー1とか2とかにするか、もっと、単純に、フェノールあり、短時間過負荷ありとか、そんな表現で良かったのです。
要因を掘り下げるのは、種々あります。
フェノールだけでも、温度と時間、更に、一回塗り、二回塗りとか、幾らでも設定出来ます。
短時間過負荷も、現行条件のアリ、ナシだけやなしに、印加時間、電圧の増減とか、更に、回数とか、沢山あります。
大山を張る程度なら、アリ、ナシ程度で、結構ですけど、適正条件を真面目に追求するんやったら、やるべきことは幾らでも考えられます。
これは、工程内容と、その理論的な意味合いを理解して、ようやく、可能なことで、新入社員では、出来るハズがナイ。出来たら、エライことです。
開発担当者はナニしてたんや。かく云う、時差出勤の技術部長は、ナニ考えてるのや。
とは云え、このトキは、半徹でやってたのに、ナンヤナ。
そんなボロクソに云うことないのに。
もっとも、云われてる意味は、あんまり、理解出来て無かったのやけど。
そして、こんな、調査とか、実験、そして、夜の生産が延々と続くのです。


5.最初のテーマ(3)     班長さん

金属皮膜は、注文がドンドン増えて、歩留まりは相変わらず低調。
そんなことですから、開発応援の新入社員に、工程の班長さんが、五時以降の残業予定を聞いて回るのです。
「アンタ、何時まで、やってクレルんえ。」
「今日は、用事があって、アカンのや。」
そんな返事が出来る雰囲気とは違います。班長さんは、コワイ。云うても、私等より、二三歳、歳下。ではあるけど、まるっきり、お姉さん、イヤ、姉御肌のヒトばっかりでした。
製造工程の作業者は、一部を除いて、女子ばっかり。殆どは、中学校を卒業して、就職してくる子です。
班長さんクラスも、大抵、中卒で、例外ナク、頑張り屋さん。社歴としたら、大先輩やし、口答え出来るもんでもナイ。しても、勝てる見込みもナイし、したこともナイけど。
そして、受け持ちの機械の調子から、工程の何処にナニがあるか、配下の作業者の体調まで熟知してます。下手したら、家庭環境まで。
公私共に、尊敬され、慕われた存在が班長と表現しても、間違いはナイのです。
はっきり云うて、工程長は男やから、作業者の面倒を含めて、班長に頼ってるのです。
有給休暇も、まず班長さんの了解を得ないとダメ。承認は、工程長の権限ですけど、その班の作業者の有給カードは班長さんが保管管理してるのです。
有給カードと云うのは、年度毎に、会社から年次有給休暇が何日あるかを各自に管理させるためにカードを渡すので、本人が保管してもヨイのですけど、殆ど全員が班長に保管を依頼してます。勿論、遅刻、早退、これも、班長が記憶してる。
ナニより、性格が、シッカリしてます。私もボンボン育ちではナイけど、相手にもならへん。こんなんを嫁はんにしたら、確実に尻に敷かれるやろなあ。
そんなワケで、何処でもそうやと思いますが、製造工程では、工程長は、まず、この班長さんを掌握せんと、仕事にはなりません。
私等が、実験、調査するのは、ウエからの指示で、工程長も了解してますし、積極的に協力する立場です。
ところが、班長さんのご機嫌を損ねたら、この班長さんが担当する工程ではナニもさせて貰えません。設備も、ヒトも、動かすことは出来んのです。
班長さんを説得して欲しいと、工程長に懇願してもダメ。それやったら、あきらめてくれ。そんなモンです。
幸い、製造工程に入り込んで応援してますから、人間関係は良好で、ダメとか云われたこともナイ。モタモタしてたら、アカンヒトやなあ。云うて、手伝ってくれました。むしろ、半人前扱いやったんやねえ。
ナカには、班長を通さんと、勝手に設備を使て、後始末もセンと、工程全員からあしらわれてたのも居ました。
で、その、残業のことです。
班長さんから、女子は、原則19時まで。男子は最低21時まで。
最初にそう云われてしまうのです。
そしたら、私等は、21時になったら、終わるのかいな。そんなことない。出荷予定量が不足してたら、帰るに帰れへん。
とうとう、半徹が貫徹になってしもて、それも三日間。
一睡もせんと、昼間は、実験と調査、夜は、製造の応援やから、新入社員、数人が倒れたんです。ウチ、一名は私。
三日間、連続と云うのは、アトにもサキにも、これだけです。受験勉強でも、そこまでしてへんかったのに。
一日二日はやれたんですけど、三日目の朝、作業引継のメンバーが出勤して来たら、気を失おたと云うか、体が動かんようになったのです。
同期入社のヤツに背負われて、休憩所(和室)で、寝かされました。背負ってくれたのがダレか、自分がどんな状況になってたかも記憶してます。
そこには、私だけと違って、何人も寝てました。
おかしいなあ。
最初から、ズーッと、一緒にやってたメンバーもそこに居るけど、途中で、姿が消えたのも居てます。
いずれにしても、仲間も居るので、安心して、寝てしまいました。
どうも、倒れんかったメンバーは、要領良く、適当に睡眠を取ってたようでした。
(99/06/12)


6.最初のテーマ(4)

当時、土曜日は通常の出勤日。
世間的にも、週六日。それが常識の時代です。
私共、新入社員一同は、金属皮膜の歩留まり向上対策の調査実験をしながら、製造の応援を、コワイ班長さん命令でやらされました。
徹夜まであったりして、残業時間は軽く百時間を突破してしまいました。
流石に、日曜日までの出勤要請は一ヶ月に一回程度しかありませんでしたけど、次第に過激になって、最低21時が24時になったり、2時にまでになったり。
こんな表現をしてたら、毎日、残業してるみたですけど、そうでもナイ。受注動向と歩留まりに左右されるのです。それと、本命の調査実験の進展です。
いずれにしても、軽く百時間突破の状態ですから、家まで、バイクで二十分ソコソコでしたけど、数ヶ月も経つと、帰るのもナンですから、会社に泊まることもありました。
当たり前ですが、家のホウが気楽ですし、良く眠れます。すると、自然の成り行きで、遅刻してしまうからです。
こんな表現してますと、いかにも遅刻常習犯みたいですけど、こんな私でも、幼稚園から大学まで、寝過ごしでの遅刻は無かったのです。ズル休みもナイ。風邪での微熱程度やったら、登校したのです。
私が寝過ごしで遅刻。そんな過酷な応援でしたが、当初は、それでも、自宅に帰ってました。出身地が京都以外で、アパートを借りてる連中なんかは、どっちでも一緒と、次第に会社で宿泊するようになってたのです。
会社には、宿泊施設はありませんですけど、毛布だけはあったし、入社から数ヶ月もすると、気候も暖かくなって来る。寝るだけならナンとかなりました。
遅刻は、とうとう、一週間に一回くらいになってしもて、その対策のための宿泊です。
金属皮膜の応援は、あくまでも応援です。私の所属は生産技術課ですから、朝の出勤はソッチで、工程に出勤するわけではナイのです。
始業マエにはラジオ体操があって、各部署で、朝礼があるのですが、その朝礼に間に合わない。
所属サキの先輩連中も、金属皮膜の応援がタイヘンな状態であることくらいは知ってますが、噂で、知ってるだけ。体験してないから実状は分からない。
遅刻が重なると、周囲の雰囲気も悪くなってくる。新入社員のクセに、マタ、遅刻しやがってとか、口にはセンだけでしょう。
そう思われなくても、学生時代には遅刻常習犯でもナイので、自責の念があったのかもしれません。
なにしろ、時差出勤のエライさんは所属が変わってしもて、オナジ部屋には居ませんから、尚更、こっちが目立つのです。まあ、エライさんと比較したらイケマセンが。
(99/06/19)


7.初めての、お給料

ハナシは、初めてのお給料のことです。
初任給は3.35万円。
当時の〆は、16日から翌月の15日まで。
入社日は23日でしたから、一週間、短いハズやのに、手取りで、5万円以上もあったのです。
初月給を配られて、全員が感激してました。そんな大金を手にするのは初めてです。
総額では、初任給の倍はあったはず。残業時間が百時間を超える状態やから、無理もありませんけど、計算してたわけでもナイので、額を見て、余計に嬉しいなって、泣き出すヤツも居ました。かく云う私も、涙を流してしまいました。
その初月給でナニをしたか。
祖母に服をプレゼントしたことだけは覚えてます。勿論、日頃の感謝の意味です。
食事は、殆ど、祖母がやってくれてました。
母も居ますけど、朝、起きるのが遅いので、私の出勤時間には、間に合わない。
それと、祖母は、就職祝いとして、自動車教習所の費用にしなさいと、4万円もくれました。
教習所の費用は、大卒初任給と同額。つまり、3.35万円見当。
現在でも、自動車教習所の費用は大卒初任給が目安になってると思います。もっとも、残業ばっかりやから、思うように、通うことは出来ませんでした。
差し引き、6500円が余ります。これも、重要な意味がありました。
就職して、初月給までの一ヶ月間を、どうしょうかと思てたのです。残業で、帰らへんのは勝手やけど、食事はセンといけませんしねえ。
バイクで通勤してたのですが、そのガソリン代も必要です。細かいハナシになりますけど、早いハナシが、学生時代やったら、適当にアルバイトでもしたら、お金はナンとかなる。ポケットに百円さえ無かっても、気にもしてなかった。
会社というのは、給料日が決まってて、東洋電具(現ローム)の場合、25日が支給日です。
マサカ、就職早々、何処かで、当面の資金を稼ぐため、アルバイトも出来ませんしねえ。
それに、大学を卒業して、就職までの間に、アルバイトもしませんよねえ。イヨイヨ、気楽な稼業も最後やから。遊びたい。云うても、そのお金も無かったけど。
そういう、当面の計算をしてませんから、給料日までの、ツナギの資金として、貴重でした。
お礼に、一万円程度の服を買おて、祖母にあげました。
親に、してないのかいな。聞かれたら、したけど、ナニをしたか、覚えてません。祖母のツイデみたいなもんでした。
いずれにしても、初月給が手に入ったので、この日を境に、懐具合も暖かくなって、夜食も豪華になりました。会社の近所の、焼き肉とかねえ。
それまでの夕食は、会社から一歩も出てません。食堂で、ウドン、おにぎり、パン。
そんなものでした。カップラーメンは存在してなかった。
昼食は、食券です。予め、希望枚数を申請して、給料から天引きされますから、問題ナシ。
泊まったときの朝食も、食堂で、パンと牛乳程度。
まあ、新入社員歓迎会とかもあって、それは、招待される側ですから、タダ。
それを、応援サキ、先輩社員。先輩社員も、一年先輩、二年先輩とか、次々にありました。
よお考えたら、肝心の、配属先での歓迎会が無かったなあ。
モトモト、飲めないし、そんなに食べるホウでもありませんでしたけど、歓迎会は嬉しかった。夕食がタダで、しかもご馳走やから。
毎週、ナニかの歓迎会があったように思います。過酷な残業の合間です。
合間と云うのは、会社が終わってから、歓迎会をやって、マタ、会社に戻って残業すると云う意味です。
酒気を帯びて、会社構内に入ることを禁ずる。
これは、就業規則です。
破ったら、どうなるか。規則では、懲戒解雇となってます。
そやけど、まともに、守るヒトはありませんでした。
私も、飲めない云うても、多少なら飲みます。少量で、真っ赤。
真っ赤になって、残業してました。
新入社員が、そんな調子で、不慣れな設備で製品を造るのやから、不良も沢山出来るし、クレームになっても、当たり前やなあ。
(99/06/26)


8.抵抗温度係数

給料袋を受け取ったときは、オーブン(恒温槽)のウエに乗ってました。
金属皮膜の抵抗温度係数を工程でも測定出来るようにするため、機械工学出身者と一緒に、オーブン(恒温槽)を加工してたのです。
ナンで、工程でも、抵抗温度係数を測定するようになったかと云いますと、そのクレームがアッチコッチから来たので、そのクレーム対策。
これは、金属皮膜を蒸着する段階で決まりますけど、その単位(蒸着ロット単位と称します)でロット判定するためです。
一ロットは、大凡、一万個程度で、そこから10個をサンプリングして、抵抗温度係数を測定して、ロットの合否を判定するのです。規格から外れたロットは廃棄。
ですから、パイロットと称して、ロットを工程に投入するマエに、そのサンプルだけを組み立てて、測定してしまうのです。合格なら、そのロットを投入します。
それをセンと、完成品にしてから、ロット判定して、不合格にでもなったら、エライことです。それだけ、付加価値が付いてしまう。
クレームが発生した場合、まず、不良品を出さないことが前提ですから、工程で対応出来るまでは、完成品段階でロット判定します。
合格に自信のナイ、特性は、なるべく早い段階でやったホウがヨイのです。
ここだけのハナシですが、クレームが頻発するまで、金属皮膜に要求される重要特性の抵抗温度係数を測定してなかったのです。
製造方法が変わってるワケでもナイので、最初っからオカシイのもあったハズですけどねえ。
その温度係数というのは、温度による抵抗値の変化を測定することになるので、全数測定は難しい。
勿論、理論的には可能ですから、当時の、設備、計測能力では。と、注釈を加えたホウが正確です。
現在でも、やってるかどうかは知りませんが、塗装工程のヒーター加熱前後で、抵抗値を測定してやれば、可能です。
そんなことなら、当時でも出来そうですけど、ダメです。測定器と、設備能力がそこまでありません。
まず、低抵抗では接触抵抗が、高抵抗ではノイズ(雑音)が邪魔します。
それを防止するためには、掴んで測定する等の手段が必要ですが、設備的に、それが出来ませんでした。
ヒーターの温度も、変動が激しいので、バラツキが大きくて、相関性が取れない。取れない場合は、規格を厳しく設定するのが常道ですが、そんなことしたら、良品を相当数、不良判定してしまいます。
金属皮膜の規格そのものが厳しいので、理論上、全て不良品判定することになってしまうこともあります。実は、シュミレーション調査したのですが、そうなってしまいました。
だめ押しで、測定器に演算能力がナイから、温度係数を計算出来ない。
それなら、ナンで、そんな調査をしたのか。それは、規格を設定するとしたら、どうなるか。ナニを解決する必要があるかで、これも、一つの技術資料になります。
当時なら、お金さえ掛ければ出来るでしょうけど、出来たとしても、演算処理時間が長いので、設備の回転数をグンと落とさんとダメです。
回転数を落とすと云うのは、一台の設備で、生産出来る数量を落とすことです。
例えば、一分間に20個を加工出来る設備の場合、回転数を20rpmと称します。
これが、半分になったら、10rpmです。生産能力が半減することになります。
ただでさえ、生産能力がナイのに、そんなことまで出来ません。それなら、設備を増やせばヨイのですが、どっちにしても、技術的に無理ですから、ヒトの手で測定することになります。
基本的に、技術力の向上と云うのは、新製品とか、性能の向上もありますけど、ナンと云っても、品質の向上です。
それは、理論的に出来てもダメです。実現する周辺技術が揃って、初めて可能になるのです。
さて、温度係数の工程での測定のことですけど、周辺技術が向上して、可能になったころには、蒸着技術も向上してますから、安全のため、ツイデに測定しておく程度になってるでしょう。
そういう意味で、現在でもやってるかどうか分からないとしたのです。
ナニしろ、30年マエのハナシですから。
(99/07/02)


9.選別作業

この応援で、最初にやったことは、フェノールと、短時間過負荷の、Aコース、Bコース。
社長から叱られたヤツです。
新入社員が、やるようなことですから、単なる調査程度で、ナンの意味もありません。
成果は、実際に自分で、抵抗器を造ったことです。
それでも、そんな難しい工程でもナイし、一ヶ月もしたら、工程でやってること、理論的なこと、ナニが問題かくらいつかめます。
最大の問題は、兎に角、注文はあるのに、歩留まりが悪いし、出荷が追いつかんことです。
歩留まりが悪い。出荷はセンとアカン。そして、投入するべき、モノがナイ。
そしたら、どうするか。
簡単なことです。自動選別機で、抵抗値が不良と判定されたものを集めて再測定したのです。
これを、パーガイ(%外)と呼称してました。
抵抗器は、所定の抵抗値から、ナン%のズレまでが良品となってます。金属皮膜抵抗は、その許容差が厳しいこと。加えて、測定精度が宜しくないので、パーガイ不良に良品が含まれてることが多いのです。
もっとも、許容差1%の規格なら、0.7%以内を良品判定にしますし、測定精度も、0.2%程度の誤差が生じますから、0.5%程度のズレのものも、不良に落としてることがあります。
これは、あくまでも、理屈上のことで、実際の測定精度には、もっとバラツキがあります。
ここだけのハナシですが、良品にも結構な確率で不良が混じってたと思います。
実際、出荷検査でも不合格になることが多いですから、工程長が、規格をナンとかして欲しいと、QCに文句を云いに来てました。
背に腹は代えられませんから、少しだけ、規格を甘くして、特採(特別採用)と称し、出荷したりもしてました。
そういう製品を入れたケース(トムソンケースと称してます)には、顧客に分からんように、マジックでマーキングしたりしてました。アトで、クレームで返品されても、どういう経歴のモノか、分かるようにするためです。
またもや、ここだけのハナシですが、この問題で、クレームになったことはなかったハズですから、先方もエエ加減なモンです。まあ、アル程度の余裕を持って、設計し、使用されているからでしょう。
それでも、納期に間に合わないので、パーガイ不良を集めて、選別して、良品を抽出するのです。
それでです。不良品から良品を選別するのは、ヒトが測定器で測定します。所謂、人海戦術です。
製造には無関係のヒトでもナンでも、緊急事態やから、そこからナン人出せとか、応援を求めてたのです。
この応援が、以外に楽しいのです。単純作業ですから、雑談ばっかり。
そして、仕事には、マッタク無関係やのに、そんな応援で、知り合いになってしもて、タマの休みにあっちこっちに行きました。
知り合いになると、後日、ナニかで関係したとき、物事も、頼み易いもんです。
「アレー。ここやったん。」
「ナンやな。」
マッタク知らん相手でもナイし、ムゲに断れません。お互い様やけど。
ヒトだけでは仕方ナイので、測定器もそこらから、かき集めたり、場合によっては、その設置場所に行ってやるのです。
ダレとは申しませんが、他部署のイケズな工程長は、貸してあげるとは云いませんでした。
こっちでやってくれ。こっちが使ってナイときだけ使ってもヨイ。
そんな選別するのは時間外やのにねえ。
そして、珍しく、貸してやると云うたときは、たいてい、調子の悪い計測器です。それを使わんと、そのまま返却すると、オマエが壊したんやろ。バカ野郎。治せ。と、なります。
まあ、どの相手が、どんな性格であるかも、次第に分かって来ました。
何故か、炭素皮膜工程の工程長に、そんな性格のヒトが多かったようです。
金属被膜抵抗だけにそんな応援があったワケではなく、さっきのイケズな工程長の炭素皮膜抵抗でもありました。
その度に、新入社員を主体にかき集められたのです。
おかげ様で、どこの工程で、どんな不良があるのかも、分かりました。
イヤと云うホド。
(99/07/07)


10.石鹸のハナシ

金属皮膜抵抗の歩留まりの悪さがどれくらいやったか。
平均値的には50%程度と記憶しています。
これでは、採算が合わんので、社長が陣頭指揮をしてたのです。
一個でも、沢山、良品を取るため、色んなヒトから、色んなアイデアが出ました。
ダレとは申しませんが、ある工程長が、抵抗器を石鹸水で洗ったら、抵抗値が下がった。そやから、パーガイのプラス側のを石鹸水で洗ろたらどうやろ。
その工程長の管轄部署は、金属皮膜工程の隣にありますから、ナニかと、応援にかり出されたのです。
発案者は真剣ですが、ダレも関心を示しませんでした。そしたら、私が捕まってしもた。
「柴田さん。どう思いますか。試す価値があると思いませんか。どうですかねえ。」
この工程長は、社歴は二年程度ですが、途中入社で、年齢的には、私より遙かにウエです。そして、ダレにでも、「さん」付けなんです。
お人柄が温厚で、悪く云うヒトはありませんでした。そんなヒトが、一生懸命、新入社員の私を捕まえて、訊ねるのです。
石鹸は普通の石鹸ですよ。0.2%程度低くなったんですよ。どうでしょうねえ。やってみる価値はあると思いますよ。
その気持ちは、充分、理解しますけどねえ。
理屈としては、石鹸の成分が不純物として、抵抗器の表面に付着するから、電流がリーク(漏れ)してるのでしょう。
高抵抗ならそれで、影響があるかも知れませんが、低抵抗はダメだと思います。
それ以前に、顧客が洗浄でもしたら、モトに戻ってしまいますよ。それに、0.2%の根拠がねえ。
こういう電子部品は、一般的に、基板に半田付けします。
当時は、半田付け後には、メタノール洗浄が主力でしたから、それで、抵抗器の表面に付着した不純物は除去されてしまいます。そのための洗浄やからなあ。
そう説明してもヨイのですが、相手が真剣で、しかも、年長者です。私なんか、間違っても、そんなエラソウなことも云えません。
お付き合いで、調査して、データに語らせたウエで、説得しましょう。
で、低.中.高抵抗値のモノを探して、比較です。
結果は理屈どおりなんですが、工程長は、それなら、高抵抗だけでも、それしたらエエなあと、すっかり、乗り気になってしもて、私の意図とは、逆になりました。
仕方ナイし、拭いてみましょう。と、紙ウエスで、抵抗器の本体を拭いて、もう一度測定すると、元に戻ってしまいました。
「アレッ、モトに戻ってしまいましたねえ。」
「どうしてなんでしょうねえ。」
「石鹸の不純物が、抵抗器の表面に付着しただけなんですよ。早いハナシが、汚れたのと一緒のことやと思います。」
ここで、更に、突っ込まれたらドウショウかと思ってましたが、ありませんでした。
ところが、ツギがこんなハナシです。
「そしたら、マイナスのパーガイ不良を洗浄してやったら、良品になるかも知れませんねえ。」
これまた、気持ちは分かるけどなあ。
それほどに、不良が多かったのです。
残業時間も、まだまだ、百時間突破ですからねえ。
(99/07/10)


11.歩留まり改善

新入社員連中が、金属皮膜抵抗工程の応援から撤退する頃には、歩留まりも、相当に改善してました。
勿論、石鹸で抵抗器を洗うようなことはしてません。
ワケも分からん連中ではありますが、その調査の結果、次第に、歩留まりの悪い原因も分かって来ました。
特には、高抵抗が問題でした。そんなことくらい、作業伝票とか、工程の資料を分析したら、スグにでも分かりそうなもんですけど、そんな簡単ではありませんでした。
生産に追われ、関係者全員が、バタバタしてますし、私ら新入社員も、実作業もして、作業伝票は、記入はしてますけど、それがナニを意味してるのか、そんなこと、最初から、分かりますかいな。
工程長、班長さんの指示どおり、単純に、名前と、作業時間を書く程度です。細かな指示はありません。
応援で狩り出されたヒトも、直接作業をしてるメンバーでもありませんから、それさえも、書き忘れたりしてました。
勿論、システムとして、数量管理はするべきもので、生産設備にも、カクンターは設置されてます。但し、エエ加減なモンで、大きな誤差があって信用も出来ませんでした。
それでも、毎日、毎日、工程に張り付いて作業し、選別までやってますから、抵抗値よって、差があることくらい、肌で感じて来てました。
それこそ、作業伝票を分析したら、数字で分かることです。
高抵抗の歩留まりについて、最初の対策は、自動カッティングを、マイナス側でストップさせて、アトは、ベテランの作業者が、手で、調節しながら、カッティングしたのです。そして、中心値近辺にしてしまう。
つまり、高抵抗の歩留まりの悪い原因の一つは、自動カッティングでの、測定器の測定精度の誤差が多き過ぎたのです。
そんな、手でやるのも限度がある。更なる対策は単純なことで、自動カッティングの回転数を下げただけ。
自動機で最後まで作業したホウが、ベテラン作業者が、手で、調整してるより、遙かに早いし、確実やから、抵抗値によって、マシンの回転数を適正なものにしてやることになったのです。
回転数を下げたら、当然、生産量は落ちるけど、不良品を造ってるより、遥かに、マシです。
それでも、意に反して、ダメなものがありました。
工程間変動です。
せっかく、所定の抵抗値に調整してるハズやのに、完成品になって、測定すると、ズレてることがある。
この原因は、金属皮膜の酸化の問題ですから、酸化防止用のフェノール樹脂を二度塗りしてやるのが対策になりました。
そもそも、工程間変動は、金属表面の酸化です。フェノール樹脂を二度塗りしたら、それだけ塗りムラも無くなりますから、それなりの効果はありました。が、それでも、まだ、ダメでした。
フェノール塗布後の、カッティング工程で金属表面が露出させてしまいますから、そこが酸化してしまうのです。
それなら、酸化するまえに塗装して、酸化防止すればヨイはずです。
実際、カッティングして、数時間、何日間とか、塗装までの時間を変えてやると、差が出たのです。
そんなことが分かるまで、工程では、酸化のことまで考慮しませんから、カッティング当日に塗装したり、翌日、イヤ、数日後であったり、してたのです。
それを可能な限り、当日に塗装してしまうようにする。
これでも、前進ですが、作業効率が悪いのです。カッティング工程は塗装出来る時間までに終了しないとダメと云うことになります。
これだけの問題なら、なるべく、ロットの大きさを小さくすれば、少しは改善出来ますが、ロットの大きさを小さくすることも、作業効率が悪くなる。
こんな具合に、少しでも対策が進み出すと、対策の内容は、より高度になるのです。
つまり、最初は、当面の課題を解決することが最重要で、次は、それで派生する問題を含めて工程改善することになるのです。
(99/07/15)


12.エージング

抵抗値の工程間変動対策。
それは、カッティング溝の酸化にどう対応するかです。
ようやく、大きな変動要因が明確になったのですから、イカにして、その対策を取るかにかかってます。
ちなみに、ナニかの問題があって、原因がわかれば、対策の半分以上はすんだことになります。逆に、どんなことでも、原因が分からないと、対策のやりようがナイ。
対策のナカで、最も単純な対応は、切り溝の酸化が進むマエに塗装したらよいのです。
これは、一時対策としては有効ですが、生産効率が悪くなる。管理も面倒です。
一時対策と云うのは、スグ出来る簡単な対策と云う意味です。云い方は、一時対策でも、仮対策でも、つなぎ対策でも、お好きなようにです。
どっちにしても、当面の対策ですから、イツまでもやってたらアカンのです。管理に頼らず、生産効率を考慮せんでもよい、技術的な対応を見つけ出すことが前提です。それを恒久対策と申します。
管理に頼った対策は次第に崩れます。納期とかが絡むと無視されてしまうのです。
恒久対策を、技術的と形容してしまいましたが、結果的に、技術と云えるかどうか、それはベツ問題です。管理手法で対応出来ることもありますし、冶具等の場合もあります。
恒久対策とは、まず、効果があって、実施がより簡単で、ミスの起こり難い対策とも云えます。
この、恒久対策と称しても、画期的な対策なんか、殆どありません。
ナンでそんな簡単なこと、やらへんかったんや。程度のことですが、技術とはそんなもんです。
そもそも、酸化が原因やて、そんなこと、相手が金属やから、当たり前のことです。その当たり前は、分かったから云えることで、それまでは未知の世界です。
トンチみたいなもんで、答えが分かるまで、七転八倒しますけど、分かってしもたら、バカみたいなことです。見過ごしと云うのもありますしねえ。
それと、よくあるハナシで、一時対策で終わってしまうことがある。
喉元過ぎれば、良かった、良かった。となります。特に、エライさんですねえ。
その頃には、歩留まりも、大分、改善されて、80%程度になってました。初期の、50%からは飛躍的な進歩ですけど、本来、そこからサキが難しいのです。
新入社員連中も次第に本業に戻されて、応援の人数も減りました。
私は、生産技術担当ですから、無関係ではナイのですが、ヤル、やらないは、上司からの指示によるもので、勝手に金属皮膜工程の改善をやることは出来ません。
とは云っても、当時のスタッフは、ある程度、自主性に任されてた面もあります。
私自身にも、本業のテーマを指示されましたが、金属皮膜工程から、撤退はしませんでした。黙って、やってたワケでもありませんけど。
理由は、その対策が見えていたからです。だから、やってしまいたかっただけ。
簡単なことです。カッティング後、強制的に酸化させてしまうのです。
要するに、オーブン(恒温槽)に放り込むわけです。
仮対策は、酸化するマエに塗装したのですが、逆に、酸化させてから塗装したらどうなるかのことです。
酸化させるなら、どの程度の温度で、どの程度の変動があるか。その変動はロットによって、どの程度のバラツキがあるか。まず、そんな調査となります。
結果的には、120度程度で、数時間のハズでした。
もっと、温度を上げたら、短時間で出来ますが、オーブンに入れる作業はヒトがやりますから、火傷でもしたら大変です。
ですから、出来る限り、低温にするべきですが、100度以下では、数日を要します。
そして、180度以上にすると、1時間以内に出来ますが、ベツの問題が発生します。抵抗器のリード線は、半田付けされますから、半田付け性を保つため、リード線を高温で酸化させたくないのです。
その他、短時間はヨイようですが、オーブン内の温度のバラツキもありますし、モノがその温度に達するまでの時間も考慮せんとあきませんから、数時間と云うのは、当時としては適切な条件でした。
この対策にも欠点はあります。
オーブンに入れるという工程が一つ増えることになります。
それと、オーブンに数時間入れて、出すのが時間外になったらどうするのか。
そんなことは、タイマーで、オーブンを切れるようにしといたらエエことです。
このように、加熱等によって、変動するものはさせてしまうことを、エージングと称します。
そのときは、知りませんでしたけど。
(99/07/20)


13.先輩と後輩

金属皮膜工程の作業と開発の応援のとき、新入社員に指示するヒトはアチコチに居ました。
本来の開発担当のヒト、そのウエ、まだウエ、工程長、社長。
内容が分かって来たら、自分勝手に調査とか、改善実験もやってました。
そんな状態ですから、データをまとめるヒマもありません。
くどいけど、パソコンどころか、計算器と云えばソロバン程度で、全て、手書きです。
そんなアレコレやって処理出来ますかいな。ダレもが、自ずと優先順位が決まります。勿論、社長指示が最優先。
そしたら、開発のエライさんが怒ります。そのシタも怒るし、工程長の云うことは一番後回しになってしまいます。
はっきり云うて、たいした意味もナイことばっかりで、悪いけど、新入社員が考えてることのホウがマシでした。
ところが、私がスグ捕まえられるようになったのです。
理由は簡単で、この工程長は私の出身高校の先輩でした。
二歳ウエですが、高校では顔は合わしてません。工程主催の新入社員歓迎会で、バレタのです。
そうか、オマエは堀川高校か。ダブルH(Horikawa High School)のなあ。ワシもやで。
ナンでも云うてくれ。全面的に応援したるで。
家もそう遠くではありません。その先輩は大丸の近くでした。
ところが、以来、ナンでも、「オイ、柴田クン。」
応援を頼まれるのは私です。先輩ですから、無碍にも断れません。
とは云っても、こちらの状況も分かってますから、助手を付けてやろうと提案してくれました。女の子をアシスタントに使いなさいとのことです。
それなら出来るハズですが、そうはいきませんでした。
掛け算、割り算どころか、足し算が苦手だったのです。平均値を教えるのが一苦労。それでも、教えて覚えてくれればよいのですが、ダメ。
それなら、データを取って貰たらエエようですけど、実験品ですから、間違って、正規のモノに混入したらえらいことですから、それだけはアカンことになってました。
それなら、アシスタントを代えてもらえばヨイのですが、そうもいきません。
当人が仰るには、私の出身中学の後輩らしい。それに、お引取り願う、適当な口実も思い付きませんでした。
「ありがとう。もう、五時になったし、帰ってもエエよ。アトはやるしな。」
そして、帰ってくれたら、恥をかかせることなく、やり直しをしたいのに、
「イイエ、そう指示されてますし、全部やってしまいます。」
そんなこと云うて、ナカナカ、帰ってくれません。
そう云われて、モオ、エエし、帰ってんか。とも云えません。
彼女が、終わったと云う計算だけを預かって、ヨソの場所に移動して再計算。この程度の計算やったら、一時間で出来てしもたのに、却って、時間を喰うてしもた。
金属皮膜抵抗の製造工程の工程長をしてたこの先輩は、二年後に上司と喧嘩して退職しました。
苦労しただけに、この金属皮膜工程に愛着があったのですが、ホカの工程に移動命令があったのです。
(99/08/03)


14.製品直送

応援期間中には、面白いこともありました。
顧客要求を守るため、夜に製造応援をやってるくらいですから、製品出荷もギリギリで、出来上がったら、即、出荷でした。殆ど、直送状態です。
通常は、出荷担当部署から、それなりのルートで顧客に出荷するのですが、夜ですから、担当部署の者が居ないこともあります。すると、工程のメンバーが代行することになります。
ナニを出荷するかは分かってますが、ギリギリですから、確認する時間も惜しんで、そこらにある製品をバンに積み込み、伊丹へ直行です。航空便で顧客に出荷するのです。
そのトキ、運転手は工程長ですが、応援に二名が指名され、私も同乗を指示されることが度々でした。
クルマのナカでやることは、出荷するべき製品の仕訳と、空港に着いたら、スグに手続き出来るように準備することです。
それをクルマのナカでやるのですから、名神高速を物凄い速度で走ります。
現在ほど、クルマは走ってませんけど、現在ほど、クルマの性能も良くはありません。
音は凄いし、揺れも凄い。私らも、名神高速そのものにも慣れてない。と云うより、最初に指名されたトキは、ダレもが喜びました。名神を走るは初めてのモノばっかりですから。
ところが、揺れが激しいのと、音の凄さで、クルマが分解してしまいそうな恐怖感。
そのウエ、夜で製品の内容が見極め難いのと、うつむいての作業ですから、恐怖感どころか、酔ってしまうのです。
私は現在に至るまで、乗り物酔いはその最初のトキが最初で最後です。酔ったと云っても、吐きそうになっただけでしたが、相棒は完全にダウンしました。
気分が悪いからと、何処かで休憩する時間的余裕もありませんから、そのままで、クルマのナカはエライ臭いで充満しました。ビニール袋も必需品です。
死なへん。大丈夫や。もうチョットの辛抱や。
とか、励ましながら、空港へ疾走するのです。
それでも、予定時間に間に合うことはありませんでしたが、空港の貨物受付担当者も鷹揚なもんで、多少の皮肉だけで、引き取ってくれました。
役目が終わっての帰りは気楽です。名神のサービスエリアで、夜食をご馳走になったり。
ですが、酔ってしもたヤツは、真っ青な顔でナニもイラン。ほっといてくれ。
そういうことで、この直送応援も、行ってもヨイ、ワルイではナク、自然に、クルマ酔いに強いメンバーが人選されることになったのです。
初回を除いて、気分転換にはもって来いでした。
(99/08/04)



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