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雑談<NO.167>

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雑談NO.168
1797 幻の科学技術立国 :第3部 企業はいま(毎日新聞、18年11月~19年1月) 磯津千由紀 18/12/23
雑談NO.166

NO.1797 幻の科学技術立国 :第3部 企業はいま(毎日新聞、18年11月~19年1月)<起稿 磯津千由紀>(18/12/23)


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2018/12/23 (Sun) 19:33

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/1 遅い投資判断、東芝転落 「30年先」の発想生かせず 技術あるのに経営なく(毎日新聞、11月29日)

 こんばんは。


 科学技術立国日本よ、今いずこ。
 先ずは東芝から。


> <科学の森>

> 「ものづくり」で高度経済成長をけん引した日本企業だが、グーグルなど巨大IT企業の出現や経済のグローバル化、新興国の台頭といった社会変革の中で、急速に存在感を低下させつつある。日本の企業はなぜかつての勢いを失ったのか。連載第3部では、国内の研究開発投資の8割近くを担う企業の現状と課題を考える。

> 「君はジョギングしながら音楽を聴きたいか。(記憶媒体の)フラッシュメモリーを使えばできる」

> 1990年ごろ、東芝の総合研究所(川崎市、現・研究開発センター)で、入社志望の学生に熱心に語りかける技術者がいた。半導体メモリーの研究開発を率いていた舛岡(ますおか)富士雄さん(75)だ。重くてかさばる上、揺れると音が飛びやすいCDを使った携帯用音楽プレーヤーがやっと普及し始めた時代。舛岡さんの部下だった作井康司さん(62)は「学生さんは目が点になっていた」と振り返る。

> 今やフラッシュメモリーは多くの電子機器に不可欠だ。作井さんは言う。「舛岡さんはアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のように、30年先を見据えることのできるビジョナリー(先見の明がある人)だ」

> フラッシュメモリーは80年代に舛岡さんが発明した。70年代に登場した半導体メモリー「DRAM(ディーラム)」は電源を切るとデータが消えるが、フラッシュメモリーはこの弱点を克服。その可能性に目を付けた米国の半導体メーカー「インテル」は、舛岡さんの最初の発表から3年後にフラッシュメモリー事業部を設置している。

> 一方、東芝社内ではDRAMの売り上げが全盛期だったこともあり、フラッシュメモリーの評判は芳しくなかった。舛岡さんはDRAMの高性能化に取り組みつつ、安価での製造が可能な「NAND(ナンド)型」というフラッシュメモリーの開発を継続。91年に世界初の製品化にこぎつけたが、販売では不振が続き、「約10年間、日の当たらない坂道を歩き続けた」(作井さん)。舛岡さんは94年、「フラッシュの先の技術を開発したい」と、東北大教授に転身した。


> サムスンの後塵

> NAND型は90年代中ごろからデジタルカメラ用の需要が拡大したのをきっかけに、2000年代には東芝の主力製品に成長。しかし、このとき世界のトップシェアを握ったのはパイオニアの東芝ではなく、韓国のサムスン電子だった。

> 部品業界では供給が滞るリスクを避けるため、必ず複数のメーカーが必要とされる。新たな市場を開拓する手段として東芝が92年にサムスンにNAND型の技術供与をすると、サムスンはすぐに巨額の投資に踏み切り、それが奏功した。

> 80年代に東芝の半導体事業を率い、94年に退任した元副社長の川西剛さん(89)は「投資するかしないか、東芝が役員会でもたもた議論しているうちに、サムスンはこれが伸びると信じて投資した。スピード感に差があった」と話す。関係者によると、技術供与の後も社内には「本当にもうかるのか」という懐疑論があったという。

> 東芝はフラッシュメモリーを立体的に積層するなど記憶容量を高める技術を次々と生み出したが、需要に柔軟に対応しきれなかったため、先行者利益を生かせず、サムスンの後塵(こうじん)を拝し続けた。90年ごろにはトップシェアを誇ったDRAMでもサムスンに抜かれ、01年に撤退を決めた。


> 総合メーカー裏目

> 判断が遅れた要因には、東芝が家電から原子力まで多種多様な部門を抱える総合電機メーカーだったことが挙げられる。投資のバランスをとる必要があり、他部門の不振で思い切った意思決定は難しかった。

> 長内厚・早稲田大教授(技術経営論)はそれに加え、経営戦略の不在を指摘する。「東芝に限らず日本の大手企業の多くは、技術的な優位性があればビジネスでも優位に立てるという思い込みから、同じ失敗を繰り返している。自ら開発した技術がそのまま製品の価値になった70~80年代の成功体験が忘れられないからだろう。経営の課題をすべて技術の問題として解決しようとしてきたところに問題があった」

> パナソニックのプラズマテレビやシャープの液晶パネルなど、国内では技術は優れているのに世界的な競争に勝てないケースが目に付く。長内さんによれば、一方のサムスンは安く大量に作って売るという戦略の下で、収益を次の事業に投資するサイクルを繰り返して成長してきたという。


> 研究開発にも影

> 東芝の経営悪化は、大事にしてきたはずの研究開発にも影を落とした。研究開発センターで半導体関連の研究をしていた30代の男性エンジニアは「装置は古く、高額の装置を買う予算もない。短期的な利益ばかりが重視され、職場のモチベーションは下がる一方だった」と明かす。男性は数年前に他企業に移籍した。

> 東芝は今年、半導体事業の子会社「東芝メモリ」を、米ファンドが主導する日米韓連合に約2兆円で売却し、「稼ぎ頭」を失った。時代の先を読む発明やアイデアを具現化できる優秀な技術者集団に恵まれながら、ビジネスで勝てなかった東芝。その姿は、日本の産業界全体に重なる。


> 自由な社風の功罪

> 1875年に創業した東芝は私たちの生活を一変させる数々のイノベーションを生み、日本の製造業をけん引してきた。日本初の電気洗濯機や電気冷蔵庫、日本語ワープロ、世界初のラップトップパソコンはいずれも東芝の発明だ。公益社団法人「発明協会」が選んだ「戦後日本のイノベーション100選」には、ソニーと並んで最多の8件がランクインしている。

> 中でも収益の屋台骨になったのが、フラッシュメモリーなどの半導体事業だ。90年には売上高がNECに次ぐ世界2位となり、東芝の利益の大半を生むようになると、それを元手に東芝は拡大路線を突き進む。06年には米原発企業ウェスチングハウスを6200億円で買収。当時、原発は成長産業とみられており、国内だけでなく海外の原発産業も手中に収めるという上層部の意向が強く働いたとされる。

> しかし、11年の東京電力福島第1原発事故により、世界の原発産業が停滞。東芝は巨額損失を隠すため、歴代社長の「チャレンジ」の一言によるトップダウンで不正会計に手を染めた。15年にそれが公になったことが転落の直接の引き金となる。負債は1兆円に達し、債務超過に転落した。

> 東芝は負債を返すべく、白物家電は中国企業、パソコンはシャープへと、自らイノベーションを起こした事業を次々と切り売り。かつての巨大総合電機メーカーは見る影もなくなった。

> 若林秀樹・東京理科大教授(技術経営)は「東芝が『選択と集中』を誤った企業買収を進めたことが原因だ」と分析する。半導体は競争が激しいうえ単価も安く、数年で製品モデルが変わる。一方の原発は1基数千億円と巨額で、建設までに十数年かかる長期ビジネスだ。「両極端の事業を同時に進めることで中間が空洞化し、経営が両方に対処するのが難しくなった」

> 東芝はしばしば「自由でおおらかな社風」と言われた。その体質はイノベーションを生む原動力にもなった半面、安易な巨額買収に踏み切ったり、不正会計が行われたりする土壌にもなった。「社風が生んだ成果を社風で失うことになり、まさに功罪と言える」と若林さんは話す。=つづく

>     ◇

> この連載は須田桃子、阿部周一、酒造唯、伊藤奈々恵、斎藤有香、荒木涼子が担当します。


> ■ことば

> フラッシュメモリー

> 半導体で作り、電子の出し入れによってデータの書き込みや読み出しをする記憶媒体。磁性を使う磁気テープやハードディスク、光を使うCDやDVDに比べ、データの入出力が格段に速く、小型化・省電力化できるメリットがある。自動車や家電、スマートフォン、デジタルカメラ、ノートパソコンなど多種多様な製品に搭載されている。

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/1 遅い投資判断、東芝転落 「30年先」の発想生かせず 技術あるのに経営なく」(毎日新聞、11月29日)>
<消滅・23/12/01>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2018/12/23 (Sun) 19:46

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/2 量子コンピューター開発 トップNEC、先越され 「大企業病」で転換できず(毎日新聞、12月6日)

 こんばんは。


 次は日電です。


> <科学の森>

> 共同研究を断る

> 「量子コンピューターを共同開発したい」

> 2003年ごろ、茨城県つくば市のNEC基礎研究所(当時)に、2人の外国人男性が訪ねてきた。カナダのベンチャー企業の副社長、特許担当とそれぞれ名乗る2人は「私たちは量子コンピューターに関する、ある特許の使用権を持っている」と主張し、共同研究のメリットを強調した。

> 量子コンピューターは現在のスーパーコンピューターをはるかにしのぐ計算能力を実現できる可能性があり、現在、各国の企業や研究機関が開発にしのぎを削っているが、当時はまだ基礎研究が始まったばかり。「突然の話だったので驚いた。怪しげだなと思った」。研究員として応対した中村泰信さん(50)はそう振り返る。

> しかも、この企業には理論の専門家がいるだけで、自前の実験拠点すらないという。一方のNEC基礎研究所は、最先端の実験装置やさまざまな特許を保有。1991年に開発した微小な炭素材料のカーボンナノチューブなど、ノーベル賞級の成果も複数出していた。「海の物とも山の物ともつかないベンチャーとNECでは釣り合わない」。曽根純一所長(67)=当時=の判断で申し出を断った。この企業こそ、8年後に限定的な用途に特化したタイプながら世界初の量子コンピューターを発売したDウエーブシステムズだった。

> D社が話を持ちかけたのは、当時、NECが量子コンピューターの根幹技術を開発していたからだ。基礎研究所にいた中村さんと蔡兆申(ツァイヅァオシェン)さん(66)は99年、量子コンピューターの計算の基本単位となる「量子ビット」の回路を作成することに世界で初めて成功し、英科学誌ネイチャーに発表した。実現は難しいとみられていただけに、論文は世界的な反響を呼んだ。


> 「特化型」採用せず

> 当時は間違いなく量子コンピューター研究のトップランナーだったNECが、なぜD社に追い越されたのか。カギを握ったのが、物理学者のセス・ロイドさん(58)=現・米マサチューセッツ工科大教授=だ。

> 量子ビットは寿命が非常に短い。ビット数を増やすほど高速計算が可能になるが、外部からの振動に弱くエラーを起こす難点があり、難しかった。ロイドさんは、これらを克服できるとする「特化型」の量子コンピューターの理論に早くから着目し、「実現の可能性がある」とD社に進言。それを受け入れたD社は特化型の開発に転換し、いち早く実用化にこぎつけた。

> 実はロイドさんは、00年にNECとも量子コンピューターの共同研究契約を結び、何度も基礎研究所を訪れては特化型の可能性を説いている。だがNECは、当初から目指していた「汎用(はんよう)型」の開発に固執。結果的にD社に後れを取った。

> D社との共同研究が実現していたら。あるいはロイドさんの助言を採用していたら。蔡さんは「(方針転換が難しい)大企業病のようなものがあったかもしれない。僕たちのグループが一番だったのに、先を越されたことは残念だ」と悔やむ。

> 08年のリーマン・ショック以降、NECはかつて世界一の売上高を誇った半導体をはじめ、パソコン、リチウムイオン電池などの事業を売却。それに伴い、研究体制も縮小の一途をたどった。07年度には年間約3500億円あった研究開発費も、現在約1000億円まで落ち込んだ。中村さんは東京大教授、蔡さんは東京理科大教授に転身した。


> ものづくり手放し

> 研究開発に時間とカネがかかる「ものづくり」を減らしたNECだが、量子コンピューターの開発は継続している。今年、D社と同じ特化型を23年までに独自開発する目標を掲げた。もともと開発を目指してきた汎用型についても、文部科学省が今年度から10年間で40億円を投じる事業に参画し、100量子ビットの実機開発を目指す。事業の代表を担うのは中村さんだ。

> ただし、世界的に見ると、出遅れ感は否めない。特化型は、先行するD社がすでに2000量子ビットを達成。汎用型も、米国のグーグルやIBM、中国のアリババなどの巨大企業が開発に乗り出し、各国も数百億~1000億円以上を投資。NECは文科省の事業にはほとんど「手弁当」で加わるという。中村さんは「日本企業は量子コンピューターにそれほどお金を出せる状況にない」と話す。

> 元基礎研究所長の曽根さんは「NECはものづくりを手放したことで元気を失った」と残念がる。「多くのシーズ(種)を持っていたのに、情けない。基礎研究所で我々は今のグーグルやIBMのような企業になれると信じて開発してきたが、なりきれなかった」


> 縮小する基礎研究

> かつて日本企業は欧米の基礎研究に頼って利益を上げているという「基礎研究ただ乗り」批判があった。1980年代以降、企業が基礎研究に力を入れ出すと、論文数は急増し、世界的な成果も生まれた。しかし、経済状況の悪化が進むにつれ、研究開発体制の縮小が相次いだ。

> 例えば、かつて日本が世界を席巻したエレクトロニクス産業。山口栄一・京都大教授(イノベーション理論)によると、日本の大手9社の発表論文は、90年代後半に3500本を超えていたが、2013年には2200本台にまで減少した。山口さんによれば、発表論文の著者の多くがその間に所属していた企業を離れており、山口さんは減少の原因は「研究者のリストラ」にあると指摘する。

> 山口さん自身、98年までNTT基礎研究所の研究員だった。当時、規模が縮小され、大学に移籍したり、営業や事業部などへの配置転換を余儀なくされたりした研究者も多かったという。研究テーマも絞られ、「本当の基礎研究はできなくなったというのが現場の感覚だった」と振り返る。

> 山口さんは、研究者がリストラされた企業では、技術を見極める能力が失われ、業績全体にも悪影響を及ぼしていると分析する。「大企業はぜい肉を落とそうとして、脳みそを切り落としてしまった」

> 長い年月を費やしてやっと花開く研究もあるが、そうした「芽」をじっくり育てることも年々、難しくなっている。富士通は68年、基礎研究などを担うため、子会社として富士通研究所を創設した。佐々木繁社長は「研究者が自由な環境の中で世界最高峰の技術開発を行うために独立させた。研究開発費の10%は、何になるかわからないものに使う」と説明するが、同研究所に勤める中堅の男性研究員は「昔は10年くらいかけて一つの研究に打ち込めたが、今はそうはいかない」と打ち明ける。佐々木社長も「かつてない速度で社会が変化している。2~3年やって研究を続けるかどうかを判断する」と、研究のスパンが以前より短くなっていることを認める。

> 一方、国内企業の中には、基礎研究を見直す機運も出てきた。日立製作所は11年の組織改編で消えた基礎研究所を、15年に「基礎研究センタ」として復活。鈴木教洋・研究開発グループ長は「かなり出口を意識した研究に偏り過ぎていたと反省した。すぐに役立つ研究ばかりやっていてはだめだ、先を考えてじっくり取り組まなきゃいけない研究もあると方針を見直した。業績は回復傾向にある」と話す。=つづく


> ■ことば

> 量子コンピューター

> 微小粒子である「量子」の性質を使ったコンピューター。コンピューターは1か0の値を取る「ビット」という基本単位を使うが、量子は1でも0でもある「重ね合わせ」という性質を持つ。2ビットなら4通り、Nビットでは2のN乗通りの処理が同時にできる。幅広い計算に使える「汎用型」と、特定の計算に強い「特化型」がある。

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/2 量子コンピューター開発 トップNEC、先越され 「大企業病」で転換できず」(毎日新聞、12月6日)>
<消滅・23/12/10>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2018/12/23 (Sun) 20:01

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/3 新薬製品化、国内は二の足 脳梗塞薬、開発の現場から 確実性求め遅い意思決定(毎日新聞、12月13日)

 こんばんは。


 次は新薬開発のベンチャーです。


> <科学の森>

> 背水の陣米企業へ

> 「これが最後のチャンスだ」。2016年8月、蓮見恵司・東京農工大教授(61)は背水の陣の心境で米製薬企業バイオジェンの日本法人に向かった。来日した同社の研究開発責任者らに、開発中の急性脳梗塞(こうそく)の新薬「TMS-007」を売り込むためだ。この日のために、データを詰め込んだ70ページ超の資料を準備した。

> 新薬の主成分は、沖縄・西表島の落葉から見つかった黒カビが生み出す物質で、蓮見さんらが血の塊を溶かす作用があることを発見した。従来の治療薬は脳出血を引き起こす副作用があり、徐々に血管がもろくなる脳梗塞では発症から4時間半までしか使えない。しかし、この新薬には血管を守る働きもあるため、より長く使える可能性がある。

> 蓮見さんは、当時社長を務めていたベンチャー「ティムス」で新薬の開発を進めてきた。50社以上に売り込みを掛けたが、多くの日本企業では「うちは脳梗塞の薬はやっていない」と取り合ってもらえなかった。話を聞いてくれた社も「フェーズ2(第2相試験)のデータを持ってきて」と突き放した。

> フェーズ2とは、比較的軽い症状の少数の患者に薬を投与し、主に新薬の有効性を調べる試験のこと。ここで有効性が確認されれば、将来の製品化のめどがある程度見通せる。「言うのは簡単なんですが」と蓮見さん。安全性を確認するフェーズ1(第1相試験)を15年に終えるまでに約5億円以上かかり、ティムスの資金は底を突いていた。製薬企業が興味を示さなければ、投資会社からの新たな資金も得られず、さらに数億円かかるフェーズ2に進むことはできない。そんな中、興味を示したのがバイオジェンだった。


> 実現性の観点から

> バイオジェン幹部が繰り出す質問は、蓮見さんを驚かせた。「どうしたら薬として開発できるかという観点からの質問。懸念ばかり尋ねる日本企業とは違う」。初めて手応えを感じた。

> 約2年の交渉を経た今年6月、バイオジェンはティムスと将来の製品化を見据えた契約を結び、一時金400万ドル(約4億5000万円)を提供した。今後、薬の開発段階に応じてさらに一時金を支払い、最大3億5300万ドル(約400億円)を提供するという内容で、「日本のバイオベンチャーの中では過去最大規模の契約」(若林拓朗・ティムス社長)だという。投資会社からの資金提供も得られ、ティムスは念願のフェーズ2を開始した。


> 判断するのが科学者

> 実は、米国のバイオジェン本部にティムスの新薬を強く推薦したのは、バイオジェン日本法人の鳥居慎一会長(58)だった。「科学的なデータを見て、この薬剤が持つすばらしさにひかれた」と、鳥居さんは話す。薬学の博士号を持ち、別の製薬会社で感染症の新薬や抗がん剤の研究開発に取り組んできた経験がある。

> 「フェーズ2の結果が出れば誰でも効くかどうかわかるが、その前のデータを見て判断するのが科学者の役割だ。日本企業は確実だとわかるまで手を出さないから意思決定が遅れる。それが、日本が米国より一歩、二歩遅れている大きな原因ではないか」


> サムスン先行、ネット炎上

> 「研究開発費は国民の税金から出ているはずだ。その特許をなぜ韓国企業に売ったんだ」。11年7月、科学技術振興機構(JST)が韓国の家電大手・サムスン電子と交わしたあるライセンス契約がインターネット上で「炎上」した。

> 契約の対象は、細野秀雄・東京工業大教授(65)らが発明した高性能の薄膜トランジスタ「IGZO(イグゾー)」を製品に使用する権利。従来の薄膜トランジスタより電子を10~20倍も速く流すことができるため、高精細で省エネの液晶ディスプレーなどへの応用が期待された。JSTは前年までの12年間、この研究プロジェクトに計約28億円を助成。基本特許を取得した後、国内外の企業にライセンス契約を呼び掛けた。最初に締結にこぎ着けたのが、日本メーカーのライバルだったというわけだ。

> 「サムスン電子へ独占的に特許発明の実施を認める内容ではありません」。ネット上の批判に、JSTは急きょ見解をウェブサイトに掲載して理解を求める異例の対応を迫られた。

> 実はJSTは複数の国内メーカーに契約を打診していた。だが、色よい返事はなく、04年に英科学誌ネイチャーに論文が発表された当初から関心を示していたサムスンが先行した。

> 12年1月になって、シャープ(本社・堺市)が2番手でライセンス契約を結び、他社に先駆けて量産化に成功。IGZO搭載の液晶ディスプレーはシャープ再生の切り札にまでなった。細野教授は「国の支援を受けて研究しているから国内企業を優先したいが、手が挙がらない時は国内も国外も同じ。当時は日本企業もまだ強かったから、シャープをはじめ全部の企業が『それほど新しいことなんかやらなくていい』という考えだった。日本企業は横並び意識が強い」と語る。

> JSTはこの一件をきっかけに、それまで乏しかった海外企業との契約を増やしている。JST知的財産マネジメント推進部の担当者は「海外の有力企業の中には世界中の社員に大学の研究成果を探させ、いち早く自社製品に取り込んでいるところもある。日本企業は社外からの技術導入の動きが遅い」と指摘する。契約交渉の場にも、海外企業は幹部が来るのに対し、日本企業は担当者レベルしか来ないという。「意思決定のスピードが違う」(JSTの担当者)のだ。


> 成果海外活用多く

> 過去にも、日本発の研究成果が海外企業の手で実用化されたケースは少なくない。15年にノーベル医学生理学賞を受けた大村智・北里大特別栄誉教授(83)の発見がもとになった抗寄生虫薬「イベルメクチン」は米国のメルク社が開発。今年、同賞に選ばれた本庶佑・京都大特別教授(76)が発見したたんぱく質「PD-1」を標的としたがん治療薬「オプジーボ」も、発売元の小野薬品工業の国内でのパートナー探しが難航し、米バイオベンチャーと共同開発した経緯がある。

> 日本の研究成果が、日本よりも海外で活用されていることを示すデータがある。文部科学省科学技術・学術政策研究所は、06~13年に2カ国以上で出願された特許を対象に、どこの国の論文(基礎研究)を引用しているかを分析した。日本の論文を引用した特許について発明者の所属国を調べると、最多は米国の発明者による特許で約9万本(41・5%)を占めた。日本は約5万5000本(25・2%)と、米国の6割程度にとどまった。一方、日本の特許が最も引用していたのは米国の論文で、8万9000本に上った。

> 同研究所の伊神正貫研究室長は「日本企業は知識を受け入れる能力が低い可能性もある」と指摘する。海外の動向や研究成果に気を配り、的確な判断ができる「目利き」の不在が響いている。=つづく

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/3 新薬製品化、国内は二の足 脳梗塞薬、開発の現場から 確実性求め遅い意思決定」(毎日新聞、12月13日)>
<消滅・23/12/16>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2018/12/23 (Sun) 20:20

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/4 「米軍のもの」に危機感 金集まらぬベンチャー 革新機構出資で軌道に(毎日新聞、12月20日)

 こんばんは。


 次も医薬品ベンチャーですが、国内で資金を調達できず、危うく米国に権利が行ってしまうところだったといいます。


> <科学の森>

> 「面白い研究だからぜひ我々の補助金を出させてほしい。必要な金は全て出す」。2012年夏、再生医療ベンチャー「メガカリオン」(京都市)の三輪玄二郎社長(67)のもとを在日米国大使館の関係者が訪れた。米国防高等研究計画局(DARPA)の意向だと明かし、こう続けた。「その代わり、知的財産権は全て米国のものになる」

> DARPAが目を付けたのは、健康な人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から大量の血小板を作る同社の技術だ。血小板は止血作用のある血液成分の一種。三輪さんは「戦争で負傷した兵士の治療に役立てようとしているのだろう」と思ったという。


> iPSから血小板

> 血小板作製の基礎技術を開発したのは、三輪さんの高校時代の同級生、中内啓光(ひろみつ)・東京大特任教授らだ。08年秋にあった同窓会で、2人は卒業以来、四半世紀ぶりに再会。iPS細胞から血小板を作り、人工血液として役立てるという中内さんの構想に、投資家だった三輪さんは二つ返事で乗った。「新たな医療インフラじゃないか。うまくすればゲームチェンジャーになれる」

> 2人は11年9月、共同でメガカリオンを創業。それに先立ち、三輪さんは関連特許を所有していた東大と交渉し、起業に必要な分の独占的な使用許諾を得ると同時に、研究開発のための資金調達を始めた。

> だが、国内企業からは「ベンチャー企業発の技術で医療インフラを変えるなんてできっこない」と相手にされなかった。20社近くを行脚したが、08年のリーマン・ショックの影響が尾を引いていたこともあって資金獲得は難航した。DARPAから声がかかったのは、「海外(からの資金調達)も視野に入れようか」と検討を始めたころだった。

> 投資側から資金提供の申し出を受けたのは初めて。「今すぐにでも資金は欲しい。でも日本の技術が米軍のものになってしまう」。思い悩んだ三輪さんは、やはり高校の同窓生の松永和夫・元経済産業事務次官(66)に事情を打ち明けた。

> 三輪さんの話を聞いた松永さんは顔色を変えた。「頼むからそれだけは勘弁してくれ。日本は今までサイエンスで勝って、ビジネスで負けてきた。またそれを繰り返してしまう」。経産官僚時代、日本発の発見や発明が海外で産業化していく様子を何度も見ては「血涙を絞ってきた」と経験を語り、三輪さんに官民ファンド「産業革新機構」(現産業革新投資機構)への相談を強く勧めた。

> 同機構の存在を「全く知らなかった」という三輪さんだったが、勧めに従って同機構に打診。機構側は約1年間かけてメガカリオンの技術力や事業計画を調べ上げ、13年に10億円の資金提供を決めた。15年と17年にもそれぞれ20億円、11億円を調達。官民ファンドからの支援が決まると、ようやく他のベンチャーキャピタル(VC)からも資金提供の話が来るようになった。再生血小板を使った血液製剤の開発も順調に進み、来年にも日米で治験を申請できる見通しだ。


> 結果出るまで10年

> DARPAからは今でもたびたび開発状況の問い合わせがあるという。だが三輪さんは今、米軍の資金に頼らずに済んだことに安堵(あんど)しているという。

> 三輪さんは日本でベンチャーを運営する難しさをこう語る。「技術と特許があっても、金が集まらないと何もできない。特にバイオベンチャーは、結果が出るまで10年かかると言われる。宝くじに例えると、当選発表は10年後。当たりが出ればそこから資金回収に入る。日本のVCはその10年を見越せず、待つこともできない」


> 法整備「20年遅れ」

> まだ海のものとも山のものとも分からない段階の研究開発に伴うリスクを引き受けるベンチャー企業は、画期的な製品やサービスを生み、イノベーションを実現するのに大きな役割を果たしてきた。しかし、日本の場合、「米国と比べ、法整備が20年遅れている」と、文部科学省科学技術・学術政策研究所の新村和久上席研究官は指摘する。

> 米国では1980年、政府資金による研究開発の成果で得た特許を大学や企業に帰属できる「バイ・ドール法」が成立し、大学などの発明や発見を元にしたベンチャー企業の設立が急速に進んだ。

> これに対し、日本では経産省が01年、大学などの研究成果を事業化する目的で「大学発ベンチャー1000社計画」を策定。その翌年度にようやく日本版のバイ・ドール法が整備されたが、それまでは、科学研究費補助金など政府資金による研究開発から生まれた特許は国が所有することになっていた。新村さんは「この法整備で、大学が特許権を活用する下地がやっとできた」と振り返る。

> その後、大学発ベンチャー設立数は右肩上がりで増え、04年度には目標の1000社を突破したが、新規設立は04、05年度の252社をピークに減少。08年のリーマン・ショックも停滞に拍車をかけ、10年度には47社にまで落ち込んだ。多くのベンチャーは資金調達に苦労し、基礎研究の成果を実用化に結びつけるまでの「死の谷」を越えられずに低迷するケースも多い。

> 新村さんは「資金を持つ大企業がリスクをとらない。プロの経営者ではない大学教員が社長となってベンチャーを経営していくことも難しかったのではないか」と分析する。

> 大学発ベンチャーの設立を支援するビヨンド・ネクスト・ベンチャーズの伊藤毅社長(41)は「特に医療や宇宙分野は数十億円単位の投資が必要な上、先の見通しが立ちにくい」と、投資家から敬遠されてきた理由を話す。「大学発ベンチャーには、研究者のほかに経営、運営のプロなど、チームとなる人材が必要だ」と強調する。

> ただ、状況は徐々に改善している。17年1月の東証マザーズ時価総額ランキングでは、上位5社のうち大学発ベンチャーが3社を占めた。こうした成功例に刺激を受け、近年の設立数は再び増加傾向にある。

> 新村さんは「最近は大企業も外にシーズ(研究開発の種)を求めており、今後も増えていくと思う」と予想する。17年から大学発ベンチャーへの出資を始めたという東京都内のあるベンチャーキャピタルは「日本の研究は優秀で、国内の技術をより早く広め社会実装する支援をしたい」と意気込む。

> 一方、専門家や投資会社が懸念するのは「シーズの枯渇」だ。伊藤さんは「大学発ベンチャーの強みは基礎研究から生まれた独創的な成果だが、最近は短期的な成果を求める政策が増えた。このままでは、ほかでは出てこないような研究成果を出すことが難しくなる」と指摘する。=つづく

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/4 「米軍のもの」に危機感 金集まらぬベンチャー 革新機構出資で軌道に」(毎日新聞、12月20日)>
<消滅・23/12/24>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2018/12/27 (Thu) 16:50

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/5 「公費で自動車業界支援」 財務省、産学連携の内閣府事業批判(毎日新聞、12月27日)

 こんにちは。


 題名に反して、来年まで続くようです。

 次は、企業が資金不足で公費で自動車技術開発の話。

 蛇足ですが、日産が三十年をかけて開発実用化した可変圧縮比エンジンは、自社開発だと思います。


> <科学の森>

> 基礎研究にカネ回らず

> 「床や壁は特別に防音・防振を施しています」

> 今年11月、横浜市緑区にある企業の一角を借りた慶応大の実験棟を、飯田訓正(のりまさ)特任教授(67)が案内してくれた。中には自動車のエンジンを模したシリンダーの実験装置が2台あり、実物と同じようにガソリンで動く。うち1台は内部の燃焼状態をレーザーで計測するため、シリンダーが透明な石英ガラス製の特注で、5000万円する。

> 京都など3カ所にも同様の実験施設がある。これらの整備費はほぼ全額、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の資金で賄った。飯田さんは「大学だけでこれほどの装置を買うのは無理。危険物を扱う許可も要り、大掛かりな燃焼実験をやるのも難しい」と話した。

> 飯田さんは、11課題あるSIPの一つ「革新的燃焼技術」に参加している。現在は40%弱の自動車エンジンの熱効率を、50%に引き上げるのが目標だ。熱効率が上がれば自動車の燃費がよくなり、二酸化炭素の排出量も減って地球温暖化対策に貢献できる。

> プログラムディレクター(PD)に、トヨタ自動車出身の杉山雅則さん(60)が就任。その下に、自動車メーカー9社などでつくる「自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)」と、慶応大や東工大など約80大学が共同研究体制を組む。AICEから約100人、大学からは約800人が参加。大学側では、卒業後に自動車メーカーに就職する学生も多い。

> 10月に東京都内であったAICE主催のフォーラムでは「大変ありがたい」と、事業に対する期待の声が自動車メーカーから相次いだ。SIPが終わる今年度末には目標が達成できるめども立ったという。「老朽化した大学の研究機器を最新のものに置き換え、新たな研究の基盤をつくった。優れた人材の育成にもつながる」。杉山さんは意義を強調する。


> 「本来民間の範囲」

> ライバル同士のメーカーが協力して環境によい技術を開発し、研究費不足に苦しむ大学側にもメリットがある。一見、理想的な産学連携に見えるが、実は財務省がこの事業を問題視している。その理由は「官民負担の偏り」にある。

> 内閣府がこの事業に投じた公費は5年間で94億円に上るのに対し、AICEが出した資金は11億円超に過ぎない。しかも研究成果は事業終了後、おもにAICEが引き継いでメーカー各社のエンジン開発に生かされる。非常に商品化に近い研究開発で、「公費による業界支援」の性格が強い。

> 自動車メーカーの2016年度の経常利益は計約5兆円もある。17年度の国内企業の研究開発費トップ3はいずれも自動車メーカーだ。投じた研究開発費に応じ、計約2000億円の減税まで受けている。これは国内企業全社の減税総額の約3割にあたる額だ。

> 「本来民間が負担すべき範囲まで国が肩代わりしていないか」。財政制度等審議会は11月、19年度予算編成に関する意見書で、この事業を名指しで批判した。

> なぜ自動車業界は自前でお金を出さないのか。日産出身でAICEの木村修二・運営委員長(58)は「実用化に近いといっても、実際に自動車に載せるまで10~15年はかかる。メーカーの優先順位からすれば下の方だ。メーカーが単独でそこまで長期的な投資を続けるのは難しい」と話す。

> だが、財政制度に詳しい佐藤主光(もとひろ)・一橋大教授(財政学)はこう批判する。「国が担うのは社会的波及効果が広い基礎研究に限るべきで、実用化に近いものは企業が出すのが本来の官民負担のあり方だ。SIPでは、充てるべきでないところに税金が使われ、基礎研究にお金が回っていない。税金の使い方として本末転倒だ」


> 研究開発費、外部へ支出

> 企業が基礎研究を縮小する中で、ベンチャーや大学、研究機関といった外部の知や資源を活用する動きが強まっている。総務省の「科学技術研究調査報告」によると、16年度に日本企業が外部に支出した研究開発費は2兆3000億円で、1999年度の1兆2000億円からほぼ倍増した。これは、社内で使った研究開発費の増加率(約25%)をはるかに上回る。

> 国内よりも海外に支出が向かうケースも目立つ。外部への支出のうち海外の大学や企業が占める割合は、01年度の約10%に対し、16年度は約25%。支出総額でみても、01~16年度にかけ、国内向けが1・3倍にしか増えていないのに対し、海外へは3倍以上に膨らんでいる。

> 国内向けが伸びない背景には、企業と大学による産学連携があまり進んでいない現状がある。文部科学省の資料によると、16年度に日本の大学が企業との共同研究で得た研究費の総額は526億円。徐々に伸びてきているが、1件当たり300万円未満の契約が8割以上を占めるなど規模の小ささが目立つ。企業との連携で年間100億円以上もの支出を受ける大学もある米国とは対照的だ。

> 企業側にも言い分がある。米国の大学と連携した経験のある大手5~6社に文科省が聞き取り調査をしたところ、日本の大学は、企業と交渉や調整をする窓口が確立されていない▽研究の進捗(しんちょく)管理に関する責任が曖昧で、企業側と協議せず成果を公開しているケースがある--などの課題が浮かんだ。

> 政府は民間資金が大学やベンチャー企業の研究開発に流れやすくなるよう政策誘導を始めた。文科省は今年度から、公募で選んだ複数の大学を5年間集中的に支援し、大学内に企業などとの大型共同研究の調整を担う「オープンイノベーション機構」を整備させる。また、財務省は19年度から、企業がベンチャーと共同研究をした際、法人税額の控除率を現行の20%から25%に広げるなどの優遇措置を設ける。

> 文科省産業連携・地域支援課の西條(にしじょう)正明課長は「国際的にみても、従来のような企業の自前主義の研究開発は資金、スピードの両面で難しく、大学側も基盤的経費が不足している。双方にとって、より本格的な産学連携が必要な時代だ」と強調する。=つづく


> ■ことば

> 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

> 内閣府が2014年度に始めた大型研究開発プロジェクト。5年で1580億円を投じ11課題を実施した。政府の総合科学技術・イノベーション会議が司令塔になり、省庁の枠を超えて基礎研究から事業化までを見通して開発に取り組み、イノベーションを起こすことを目指す。責任者のプログラムディレクター(PD)に具体的な研究計画や予算配分を任せるのが特徴。

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/5 「公費で自動車業界支援」 財務省、産学連携の内閣府事業批判」(毎日新聞、12月27日)>
<消滅・23/12/01>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2019/01/14 (Mon) 06:40

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/6 「出口」重視、変わる研究 50社アンケートからみる事業(毎日新聞、1月10日)

 おはようございます。


 件名に反して、12月を過ぎても続きます。

 研究開発分野では、米はかつての米国病から脱却し、日本は停滞してるようです。
 「まだ世の中に存在しないもの」に手を出しかねる傾向にあるようです。


> <科学の森>


> 財界、「基礎偏重」を批判

> 「経営資源に限りがある中、研究開発についても、モノのサイエンスを扱う中央研究所的な領域から、別の新しい領域にシフトしていかねばならない」

> 昨年11月にあった政府の総合科学技術・イノベーション会議の会合。議員の小林喜光・経済同友会代表幹事(72)が訴えると、他の議員からも「今までの延長線上でやっていても変わらない」(橋本和仁・物質・材料研究機構理事長)などと、同調する意見が相次いだ。小林さんは「ノーベル賞を極端にありがたがるのは、日本人の遅れた発想だ」とも述べ、従来の科学技術政策を「基礎研究偏重」と批判した。

> 三菱ケミカルホールディングス(HD)会長も務める小林さんは、博士号を持つ研究者から経済団体トップに上り詰めた異色の経歴を持つ。研究と経営の双方を知る小林さんの主張は、企業の研究開発の「転換」を強くうかがわせた。

> 日本企業の研究開発はどう変わったのか。毎日新聞は昨年10~11月、研究開発費が多い主要50社にアンケートを実施し、33社から回答を得た(回答率66%)。各社の公表資料なども合わせて傾向を分析した。


> リーマン・ショック前の2007年度と直近の17年度で研究開発費を比べると、17年度の方が増えた企業が34社で、減った企業の14社(2社は07年度に存在せず)を上回った。


> 自動車・製薬、投資増

> 増えた企業には自動車関連会社と製薬会社が目立った。増加の理由について、日産自動車は「次世代車開発において投資する分野が拡大」▽自動車の電子部品を製造するTDKは「主にエレクトロニクス産業や自動車産業の発展とグローバルベースでの市場拡大に伴い、これらの産業に必要とされる電子部品の市場も拡大した」と回答した。大日本住友製薬は「09年に米国企業を買収し米国市場に進出して以降、米国での研究開発投資が増加している」と答えた。

> 自動車業界では近年、電気自動車の開発や自動運転など新しい分野への投資が広がっている。製薬会社も新薬の開発競争が激化し、グローバル化する欧米企業に対抗することが迫られている。研究開発費の増額には、こうした背景があるとみられる。


> 電機メーカーは減

> 一方、減った企業には大手電機メーカーが並ぶ。NECは「半導体事業を移管し社会ソリューションなどに重点化している。戦略的に事業の選択と集中を行っている」▽富士通は「事業がハードからサービスにシフトしているため。サービスの領域では、新技術を開発するというより、既存の技術をいかに組み合わせてお客様のニーズにあうサービスを仕立てるかについて試行錯誤している」とそれぞれ回答した。コニカミノルタは「サービスの開発の割合が増加し、オープンイノベーションを進めたため」と答えた。

> 共通するのは、ものづくりからサービスへと事業を大幅に転換したことだ。研究開発を社内だけで行わず、産学連携でベンチャーや大学の知を生かす「オープンイノベーション」が進んだことも一因とみられる。

> 中央研究所のような長期的視野に立った社内研究拠点について尋ねたところ、「維持している」と答えた社が18社あったのに対し、「縮小した」「別会社などに再編」「閉鎖した」と答えた社も計8社あった。

> 15年に閉鎖した建設機器メーカーのコマツは「技術進歩の加速化、分野の拡大・細分化などの環境変化により、自社開発だけではすべてをまかないきれなくなったことが理由。自社にない技術は積極的に外部から取り入れていく方針とした」と回答。「再編した」と答えた企業では、オリンパスが「自主に加え、大学との共同研究や委託研究を実施」▽三菱ケミカルも「オープンイノベーション(大学との共同研究など)」と答え、それまで自社で担ってきた基礎的な研究開発を、外部に求めていく傾向がうかがえた。

> 一方、維持している社の理由では「研究開発型のグローバル製薬企業としてR&D(研究開発)は不可欠」(武田薬品工業)▽「研究開発は新たなイノベーションを生み出す原動力ととらえており、さまざまな研究分野で多様性に富んだ研究者を一堂に集めることで、研究者同士のシナジー(相乗効果)が得られイノベーションを起こしやすくなると考えているため」(日立製作所)などの回答があった。

> 研究テーマをどう設定しているか、社内で最も多いケースを尋ねたところ、「研究者個人の発案によるボトムアップ型」が12社▽「会社本部の方針によるトップダウン型」が4社▽「同等にある」「明確化が困難」などと回答した社が9社と、傾向が分かれた。


> 増える海外連携

> 近年では国内だけでなく、海外と共同研究を行うケースが増えている。海外の共同研究先を三つ選んでもらい集計すると、米国が18、ドイツやフランスなどの欧州連合(EU)諸国も18と拮抗(きっこう)。中国やシンガポール、インドなどアジアを挙げる企業もあり、多様化している状況がうかがえた。

> 研究開発費は増えているのに、企業の研究力が低下していると言われるのはなぜか。藤村修三・東京工業大教授(イノベーション論)は「日本企業が行ってきたのは、せいぜい製品化の前の要素技術の開発。例えば量子コンピューターのように、純粋な基礎研究は産業構造すら変える可能性を秘めているが、日本企業の研究はその逆で、どんどん出口(商品化)に近くなっている」と指摘する。


> 先端技術、米ITに遅れ

> 海外企業の研究開発はどうか。近年、巨額の投資が目立つのは、米国のグーグルやアップルなどの巨大IT(情報技術)企業だ。欧州委員会が分析した世界の研究開発費上位10社中、IT関連企業は、2012年版では米マイクロソフトなど3社だったが、17年版ではグーグルの持ち株会社アルファベット、アップルなど6社が占めた。

> 毎日新聞の企業アンケートでは、国内の自動車業界が研究開発費を増やす傾向がみられた。だが、先端技術への投資戦略が専門の横山恭一郎・野村証券エクイティ・マーケット・ストラテジストは「日本の自動運転技術は海外に比べ遅れている」と指摘する。

> 自動運転技術で世界トップを走るのは、一見、車とは無縁そうなグーグルだ。子会社のウェイモは、自動運転の実証実験で集めた大量のデータをAI(人工知能)に学習・分析させ、技術の向上に役立てている。米カリフォルニア州で17年、自動運転で同乗者が危険を感じて運転に介入した回数を調べた結果、同社のソフトウエアを使用した車は約9000キロに1回だった。一方、日産自動車は約330キロに1回で、桁違いの差が出た。

> グーグルは自動運転以外でも、13年に量子人工知能研究所を設立したほか、AIを使った画像診断などの医療、エネルギー、脳科学など幅広い分野に投資する。横山さんは「グーグルにはさまざまな分野の専門家がいて、コミュニケーションを促進する環境がある。イノベーションは異なる知と知の組み合わせで生まれる。日本企業も縦割り型の研究開発から脱却する必要がある」と話す。

> 先端技術の動向調査が専門の城田真琴・野村総合研究所上級研究員は、日本企業の優秀な研究者の海外流出や技術の「目利き」不足を懸念する。「中国のIT大手の百度(バイドゥ)などの主力研究者は、米国の巨大IT企業などを経験して戻った人だ。日本にも優秀な研究者が戻ってきてくれる仕組み作りが必要だ」=つづく

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/6 「出口」重視、変わる研究 50社アンケートからみる事業」(毎日新聞、1月10日)>
<消滅・24/01/13>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2019/02/13 (Wed) 21:33

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/7 研究と就活、両立に悩み 博士課程、就職難で入学者減 専門性、高評価の動きも(毎日新聞、1月17日)

 こんばんは。


 博士号を取ると逆に就職難の日本も、少し変わりつつあるようです。。


> <科学の森>


> 「学位取得が最優先で、準備に手が回らなかった」。東京都内の私立大理工学部に博士研究員(ポスドク)として籍を置く男性(32)は、2017~18年に経験した就職活動を振り返った。学部時代から続けていた研究は面白かったが、安定したポストを得にくい学術界に残ることには不安があった。博士号取得を目前にした17年夏、企業への就職を決意。「年齢的に新卒と内定を競うのは難しい」と、中途採用を狙って転職サイトに登録した。

> しかし、日中は研究や論文執筆に加え、研究室の後輩の指導に追われた。深夜や休日にエントリーシートを書き、数社に応募したが採用に至らなかった。博士号取得後はポスドクになったが、休職して就活に励み、昨年暮れにようやくIT系企業に内定を得た。


> 長く採用に消極的

> 文部科学省は、博士を科学技術イノベーション推進の中心を担う人材と位置づけるが、企業は長く博士の採用には消極的だった。文科省が18年に公表した博士課程修了者の追跡調査では、12年に企業に雇用された人は全体の約28%にとどまり、15年も約25%と横ばいだった。就職難を背景に、博士課程入学者は03年度の約1万8000人をピークに減少し、17年度は約1万5000人に減った。

> 就活サイトを運営する「アイプラグ」は、博士の採用が広がらない理由について「過去に採用実績がない企業では、扱いにくいといった博士人材への先入観があり、給与体系などの受け入れ態勢ができていない」「中小企業に、研究に精通している採用担当者がいない」などを挙げる。同社は企業側の「食わず嫌い」解消のため、研究内容や人柄を紹介する博士課程専用の就活サイトを設けた。

> 一方、ここに来て、企業の姿勢にも変化が出始めた。昨年11月、東京都新宿区の早稲田大で、博士課程の学生とポスドク限定の就活セミナーが開かれ、企業11社が参加した。学生たちは自分の研究内容のほか、趣味や特技、性格、長所などを書き込んだポスターを掲示し、その傍らに立って企業の担当者にアピールした=写真・斎藤有香撮影。東京医科歯科大大学院博士2年の山下真梨子さん(25)は「研究内容だけでなく、人となりをわかってもらえるよい機会」と話した。

> 参加したIT企業「電通国際情報サービス」の採用担当者は「彼らが説明してくれる研究内容や専門知識の豊富さは高レベル。学習する力、高い水準でアウトプットする力が鍛えられていると感じた」と手応えを感じた様子だった。


> 海外企業と渡り合う

> 「海外企業の研究者は博士号を持っているのが当たり前。対等に渡り合うには博士人材の確保が必要だ」と話すのは、スリーエムジャパン人事本部の朝岡淳マネジャーだ。同社は3年前から博士を積極的に採用しているが、他社でも博士人材の初任給を上げるなど、獲得に乗り出す傾向があるという。朝岡さんは「企業に就職したいと考える科学技術系の博士課程の学生は年間1300人ほど。今後は奪い合いになっていくだろう」と予想する。

> 野村証券は今年度、博士課程の在籍者限定で、入社時期を学生自身が決められる「野村パスポート」制度を導入した。研究と就活の両立に悩む博士課程の学生の声を受けて創設した制度で、自分の好きなタイミングで入社できるため、博士号取得まで研究に注力できる。同社は「博士人材は分析力、問題解決力に優れている。特にニーズの高い情報科学分野などで、専門性の高い優秀な学生を採用したい」と期待する。

> 早稲田大で理工学分野の5年一貫制博士課程の教育に取り組む朝日透教授は「社会の将来の課題が見通しにくい中で、どのように成果を出すかという方法論や知識を社会に役立てられる人材が求められるようになり、企業の採用方針も変わってきた。博士人材が高く評価される時代になってきている」と話す。


> 修士、成果ないまま面接

> 博士の場合は通年採用が普及してきたが、修士や学士は春の新卒一括採用がまだ主流で、学業と就活の両立に悩む学生が多い。理工系では学部卒業生の4割前後が修士課程に進むが、研究経験を積む前に就活が始まるため、専門性を十分にアピールできない上に研究にも支障が出ている。

> 「就活中は研究の効率が下がった。気持ちも落ち着かず、精神的にも研究に専念できなかった」。関東地方の国立大大学院で化学系の研究室に所属し、今春、就職する修士2年の男子学生(24)はそう振り返る。昨年3月に就活を開始。研究に影響が出ないよう、8社に絞ってエントリーした。それでも、説明会や面接で実験のスケジュールが狂うことがたびたびあった。

> 専門職として採用選考を受けるにもかかわらず、まだ修士論文がないため、自身の適性を客観的に説明できる材料が乏しいことに疑問も覚えたという。「研究能力を示す武器が何もない。せっかく大学院に進んだのに、そのメリットがほとんどないと感じた」

> 同じ研究室の別の男子学生(25)も「面接で大学院での研究に関する質問もあったが、せいぜい熱意を伝えるくらいしかできなかった」と話す。

> 旧7帝大と東京工業大の工学部で構成する「八大学工学系連合会」は昨秋、今春就職予定の修士課程の学生を対象に、就活に関するアンケートを実施し、644人から回答を得た。経団連の指針による「就活ルール」では、卒業前年の3月に企業が採用に向けた広報を開始する決まりだが、アンケートでは、就活をいつ始めたかという問いに62%が「1月以前」と回答。企業を対象とした文部科学省の調査ではわずか1・8%で、学生側の実体験とは大きく乖離(かいり)している。

> 全体の7割が4カ月以上を就活に費やしており、そのうち「9~12カ月」「12カ月以上」が計12%と、就活が長期化している実態が浮かんだ。短期間、企業の仕事を経験するインターンシップも7割が経験しており、「3回以上」が4割を占めた。1回あたりの平均日数で最も多いのは「2~5日」(39%)で、「6~10日」「11日以上」が各19%だった。

> 国際的に注目されるバイオベンチャー「ペプチドリーム」の共同創業者、菅裕明・東京大教授は「指導教授の薦める企業に就職することがほとんどだった昔の理工系の大学院生と違い、今の学生はようやく研究が本格化してくる時期に就活で膨大な時間を取られる。学生は研究者としての力量を身につけられず、研究室全体でみても実験の担い手が減って研究力が低下する」と危惧する。

> 菅さんが提案するのは、修士論文の提出と評価を修士2年の12月に終わらせ、残りの3カ月間を就活にあてるという抜本的な改革だ。「学生はやり遂げた研究の意義や成果を企業に説明でき、企業も学生の研究力を総合的に評価したうえで採用できるので、双方にメリットがある」

> 大久保達也・東大大学院工学系研究科長は「イノベーションがなかなか起きず、画期的な研究成果も出にくくなっている現状の足元には、就活の問題があるのではないか」と指摘する。=つづく

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/7 研究と就活、両立に悩み 博士課程、就職難で入学者減 専門性、高評価の動きも」(毎日新聞、1月17日)>
<消滅・24/01/13>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2019/02/18 (Mon) 20:40

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/8止 新領域への対応鈍い日本 次世代太陽電池「ドーナツ化」(毎日新聞、1月24日)

 こんばんは。


 ようやっと、最終回です。と云いたいところですが、番外編が続きます。

 日本では実績のない開発に資金が集まりづらいと、昔から言われてますね。
 挑戦的な研究が減ってるといいますが、同感です。


> <科学の森>


> 開発者、中国厚遇に心揺れ

> 「技術顧問になってほしい」。昨年11月、中国・上海を訪れていた宮坂力(つとむ)・桐蔭横浜大特任教授(光電気化学)に中国企業から声がかかった。宮坂さんは2009年、次世代太陽電池として期待され、世界的に開発競争が激化している「ペロブスカイト太陽電池」を開発した人物だ。宮坂さんの研究室に留学し、その後、中国に戻った研究者の紹介だった。

> ペロブスカイト太陽電池は、現在主流のケイ素系太陽電池に発電効率が近い上に安価で、塗料のように塗って使える利点がある。発表当初の発電効率は3・9%に過ぎず、当時でも20%超だったケイ素系に見劣りしたため注目されなかったが、12年に10%を超えるとにわかに研究競争が激化。今では効率が20%を超え、ケイ素系に近づいている。宮坂さんの論文の引用件数は一気に増え、米情報会社はノーベル賞候補に名を挙げた。

> 宮坂さんに声をかけた中国企業はドローンを開発しており、ペロブスカイト太陽電池を機体に塗ることで滞空時間の延長を目指していると説明し、現在宮坂さんが得ている額の10倍以上にあたる年間数億円の研究費を提示したという。


> パートナー探すが

> 宮坂さんは実用化を目指し、国内でパートナー企業を探したが、なかなか見つけられずにいる。「日本で生まれた新材料だから、日本で育てたい」と考えているが、中国企業を現地視察して「実用化に向けた本気度がうかがえた」と、気持ちが揺れているという。

> ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術だが、意外にも日本での研究開発は低調で、「ドーナツ化」している。オランダの学術情報大手エルゼビアの分析によると、13~17年の関連する総論文数6995本の内訳は、中国が38%、米国22%に対し、日本はわずか7%。宮坂さんは「この分野の日本の研究者は多くて100人。中国にはその100倍はいるだろう。ペロブスカイト太陽電池を特集した専門誌3000部が中国で一瞬で完売したと聞いた」と話す。共同研究などを持ちかけてくる企業も海外が中心だという。


> 挑戦的な研究減り

> ペロブスカイト太陽電池のように国際的に注目を集める分野に各国がどのくらい参画しているかを文部科学省科学技術・学術政策研究所が分析したところ、895(16年)の研究領域のうち日本が参画していたのは33%で、米日英独中の主要5カ国で最低。02年の38%より低下しており、日本の存在感が薄まっている状況が浮かぶ。

> 一方、米国は02年より下がったものの90%と高水準を保つ。英国(63%)、ドイツ(56%)、中国(51%)は右肩上がりで、特にナノテクや人工知能(AI)など新しい領域で中国の伸長が著しい。

> さらに、他の研究や過去の研究との関連性が小さい独創的な研究領域で日本の弱さが目立つという。こうした新しい領域は「イノベーションのタネ」として、研究の多様性を担う。同研究所の伊神正貫・研究室長は「日本の研究は一時的な流行を追う傾向が強く、挑戦的、探索的な研究が減っている」と分析する。

> 宮坂さんは「海外では新分野が生まれたとき、学会や会議の発足が迅速だ。一方、日本は既存の学会の“その他”の領域に押し込められ、分野横断の議論が進まない」と話す。


> IT企業、経済学者引き抜き

> 「待遇は良いし、この会社が経済学者をたくさん雇って何をしているんだろう、という興味もあった」

> 一昨年、アジアの大学からある巨大IT企業の日本支社に引き抜かれた40代の日本人研究者は、移籍の理由をそう語った。企業からは「知り合いのつて」で誘いがあったという。専門は「ミクロ経済学」。経済の最小単位である個々の消費者や生産者がどのような経済行動をとるかを研究する学問だ。現在の具体的な仕事内容を聞くと、「明かせないが、すごく面白いですよ」と笑顔を見せた。

> 米国のグーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン・コムの頭文字をとった「GAFA」や中国のアリババをはじめとする大手IT企業が近年、こぞって経済学者を雇用している。著名な経済学者のスーザン・エイシー米スタンフォード大教授らによると、例えばアマゾンは過去5年間だけで150人以上を新たに雇用。「博士号を持つ経済学者がテクノロジー企業でますます中心的な役割を果たすようになった」という。自身も米マイクロソフトのチーフエコノミストを務める。

> IT企業のミクロ経済学への関心を一気に高めたのは、グーグルのオンライン広告だ。同社は利用者の膨大な検索データを分析し、個人が閲覧するウェブサイトに時々刻々と広告を自動表示している。広告のクリック数に応じてスポンサー料が決まり、サイトの運営者に支払われるが、一部が仲介手数料としてグーグルの収入となる仕組みだ。広告主は入札で決まるが、その際に「ゲーム理論」というミクロ経済学の主要分野が応用されている。

> 1998年に設立されたグーグルが瞬く間に巨大企業に成長を遂げたのは、この仕組みによる収益のおかげだった。松島斉(ひとし)・東京大教授(理論経済学)は「グーグル・インパクトは、従来の『ものづくり』から産業構造とビジネス戦略を一変させた」と話す。これ以降、ビッグデータを解析して市場を理解し、動向を予測する実証的な研究が活発化し、企業が大学の第一線の経済学者を高い報酬で引き抜く事例も増えた。

> ただし、これはあくまで海外企業の話だ。「日本企業にはそういう気配が全くない」と、冒頭の研究者は指摘する。こうした異分野融合はイノベーションのカギだが、従来、日本は苦手としてきた。政府はようやく重い腰を上げ、人文・社会科学も含めて科学技術政策を推進する方向になった。松島さんは「日本の経営者は、新しい研究の知見をビジネスに生かすという見識が極端に低い。日本の没落はそこに起因するのではないか」と語る。=第3部おわり

>     ◇

> この連載は須田桃子、阿部周一、酒造唯、伊藤奈々恵、斎藤有香、荒木涼子が担当しました。次回は番外編として、識者インタビューを掲載します。

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま/8止 新領域への対応鈍い日本 次世代太陽電池「ドーナツ化」」(毎日新聞、1月24日)>
<消滅・24/01/13>


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2019/02/19 (Tue) 07:15

副題=題名変更

 おはようございます。


 連載が当初予想よりも長かったことは、先述の通りです。
 連載終了が1月31日と確定したので、題名を変更しました。

旧題名:幻の科学技術立国 :第3部 企業はいま(毎日新聞、11~12月)
新題名:幻の科学技術立国 :第3部 企業はいま(毎日新聞、18年11月~19年1月)


【磯津(寫眞機廢人)@ThinkPad R61一号機(Win 7)】 2019/02/19 (Tue) 07:40

副題=幻の科学技術立国:第3部 企業はいま 番外編 識者インタビュー 小林喜光 経済同友会代表幹事/山口栄一 京都大教授(毎日新聞、1月31日)

 おはようございます。


 いよいよ、終わりです。

 日本企業では、長期的研究・革新的な技術が、出来なくなっているといいます。


> 連載第3部では、日本企業の研究力をテーマに、優れたシーズ(種)を生かせずイノベーションにつなげられない問題を取り上げた。ともに企業の研究者出身で、従来の基礎研究からの転換を訴える小林喜光・経済同友会代表幹事(72)と、研究体制の縮小が業績悪化を招いたと指摘する山口栄一・京都大教授(64)に聞いた。


> ノーベル賞追求は不要 小林喜光 経済同友会代表幹事

> --日本企業は長期的な研究ができなくなっているという指摘があります。

> かつての企業の中央研究所は「モノ」の研究が主流だった。しかし今は、モノからコト、ココロへターゲットが移っている。従来の中央研究所はどんどん重箱の隅をつつくような研究になっている。

> --最近のノーベル賞受賞者の多くが、基礎研究への投資が足りないと批判します。

> 僕の考えは逆だ。日本はノーベル賞をたくさん取ってきたが、経済もビジネスも負けている。光ディスクやリチウムイオン電池、みんな日本人が先行した発明なのに、ビジネスの勝者は海外だ。かつての自然科学にこだわっていることが一番間違っている。今の企業時価総額上位のGAFA(米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)、中国のアリババやテンセントは誰もノーベル賞を取っていない。学術界は自由に研究すればいいが、それを企業の中心に据えたから日本経済がダメになった。

> --では、どういう研究を重視すべきですか。

> 例えば自動運転では、クルマを作ってきたトヨタが人工知能(AI)を使い、グーグルはAIで逆にリアルの世界に攻めてくる。その戦いだ。日本がもともと強い物理学や化学、エレクトロニクスの分野に、AIやビッグデータを融合させる。そこに日本の生き残る道がある。

> --大学には、どういうことを求めますか。

> 縦割りがまだ残り、研究がサイロ化(他の分野と連携がなく孤立化)している。これに横串を刺してオープンイノベーション化することが重要だ。人文・社会科学と自然科学が融合し、人間とは何か、社会とは何かといった課題が重要になってきている。さらに世の中には解決すべき大きな問題が残っている。エネルギー・環境問題、脳やDNAなどヒトのサイエンス、光量子コンピューティング。そうした分野に焦点を当てた基礎研究をやっていくべきだ。カビが生えたような研究をしている大学教授をどうするかだ。何でもやろうとするのは、もう無理だ。

> --今の日本企業に若者が希望を持てますか?

> 昨年の内閣府の世論調査で、現状に満足している国民が74・7%もいる。そんな高い数字が出ることが異常だ。高みを目指して頑張っていない。危機感の欠如だ。平成の30年間で「日本は敗北した」という認識から始めないといけない。世界と互角に戦っていくためには、若者はもっと怒り狂わないと。本当に大事なのは心の問題、ガッツの問題だ。【聞き手・酒造唯】


> ベンチャー支援に投資を 山口栄一 京都大教授

> --日本企業から、革新的な技術が生まれなくなっています。なぜでしょうか。

> 1990年代後半、企業が中央研究所を次々と閉鎖・縮小し、優秀な研究者を次々とリストラしたのが原因だ。研究所を残した企業も、力を入れるのは既存の技術を伸ばすことで、未来の産業を作る方向には向かわなかった。原因の一つは株主価値優遇の経営だ。製品化に結びつくかどうか分からない研究にはリスクがある。基礎研究に投じるお金は投資ではなくコストと見なされ、大企業はリスクを取ることができなくなった。

> --現状打破の処方箋はありますか。

> 大学の最先端の知から出発するベンチャー企業に期待するしかない。米国では、理系の大学院生や研究者をベンチャー起業家に育てるSBIR(スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ)制度が奏功している。ベンチャーはだいたい資金不足でダメになるが、公的資金で支える制度だ。例えば「超高温で動く半導体素子の開発」など挑戦的なテーマを設定し、若手科学者に手を挙げさせて支援する。この制度で最先端研究と市場が結びつき、6万人以上の科学者の起業家が生まれた。画期的な薬を開発したベンチャーも現れた。

> --日本でも実現できますか?

> 米国をまねて同じ名前の制度を作ったが、日本では単なる中小企業支援制度になっている。米国の制度で重要な役割を果たしているのが、テーマを設定する科学行政官だ。博士号を持ち、研究者と同レベルの最先端の知識がある。さまざまな分野を俯瞰(ふかん)し、どんな技術が将来の産業に結びつくか目利きができる。だからこそ、専門的で具体的、そして未来の産業につながるテーマを設定できる。科学行政官がいないのは、先進国では日本だけと言っていい。非科学者が科学技術イノベーション政策を担当している奇妙な国だ。日本も科学行政官制度を導入すべきだ。

> --大企業にできることは?

> 資本を投下してベンチャー企業を支援すべきだ。大企業に残っている研究者が最新技術の情報を収集し、どのベンチャーが優れているのか目利きをすることはできるはずだ。水面下にどんな技術があるのかを知ることができるのは研究者だけだ。ライバルのベンチャー同士をつなぎ、技術を統合することもできる。有望なベンチャーがあれば買収するなりして、その技術を自社で生かせばいい。中国企業は盛んに日本のベンチャーを買収しようとしている。ベンチャー企業は宝の山だ。【聞き手・伊藤奈々恵】


> ■人物略歴

> こばやし・よしみつ

> 三菱ケミカルホールディングス会長。東京大大学院修士課程修了。三菱化学社長、政府の経済財政諮問会議議員などを歴任。理学博士。


> ■人物略歴

> やまぐち・えいいち

> 東京大大学院修了。NTT基礎研究所主幹研究員、同志社大教授などを歴任。専門はイノベーション理論、物性物理学。理学博士。

<参考=「幻の科学技術立国:第3部 企業はいま 番外編 識者インタビュー 小林喜光 経済同友会代表幹事/山口栄一 京都大教授」(毎日新聞、1月31日)>
<消滅・24/01/13>


<参考=NO.1949 幻の科学技術立国:第4部 世界の潮流(毎日新聞、19年4月~)